the night of worldend
01.やがて太陽は地平線を蝕み
土に還れない子どもは静かに景色を目に焼き付けていた。
海の奏、雲の流れる低い音、鳥の鳴き声、草木の囁き、風の調べ。
世界の美しさ、触れられる位置にいる人達の笑顔や、声。
すべて忘れてしまわないように、持っていけるように。
ぎゅ、と無意識の内に握り締めたてのひらから、嫌な汗が出た。でも知らない振りをした。気づかない振りを貫き通すんだ。そう言い聞かせて。
遠くで自分の名前を呼ぶ声がする。
本当は自分の名前ではないのに、与えてもらったもの。記号でしかないけれど、大切なもの。でもいつかは返すから、今だけは。
そっと、握り締めていた手のひらの力を抜いて、声に応える。
うんわかった、と声を張り上げる。それさえ不思議に感じるのだ。自分が此処に居ることが、生きているということが、なんでこんなに、泣きたくなるのか。
そうして思い知る感情を、ただただ押し殺して、輪廻がけして巡らない子どもは静かに駆け出した。
(生きていたいなんて、)
作品名:the night of worldend 作家名:水乃