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the night of worldend

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02.そしてゆっくり、ゆっくりと




距離が遠くなってる気がするんだ。
独特な、子どもらしい高い声。だけどそれはとても落ち着いていて、それでも今からでも泣きそうなほど水分がたまったような、不安定な響きをしていた。
ガイが座っている位置からでは、さらりと揺れるツインテールと、小さな背中しか見えなかった。それでいいと思ったガイは、静かに、うん、と答えた。少女の表情を見るのは失礼な気がした。
それでね、とふわりと黒髪が揺れる。それと一緒に揺れた背負われたトクナガは、まるで落ちないように必死に掴まっているようにも見え、ガイは少し眉を顰める。
いつだって少女は、不安定で不釣合いだ。泣くことを恐れているようにも見えた。揺れる心を、必死に隠そうとする。
そして誰かと似ている、とふと思う。

(いったいだれに?)

それで、ね。
と、続いた少女の声。ゆらりゆらり、と殺そうとしている感情を誤魔化すように、左右に身体を揺らす。
それと一緒に、背中のトクナガも揺れた。それを見て、ガイはまた同じように、うん、と応えた。とても静かに、穏やかに。
そうして短いような、長いような時間が流れた後に、少女は突然揺れるのをやめて、ゆっくりとその場に膝を折って顔を膝に埋めた。泣いてるのかとガイは思ったけれど、嗚咽の声も、鼻を啜る音も聞こえなかった。
声を押し殺しているのかもしれなかったし、ただ、蹲っただけかもしれなかった。
ガイはその小さな背中をしばらく何も言わず見守った後、椅子から立ち上がって、少女が蹲っている場所まで緩やかな足取りで近づき、背中をやさしく撫ぜた。
ぎこちないのは、まだ女性恐怖症が残っているからで、それでもガイの気遣いに少女はたくさんのものを押し殺した声で、馬鹿じゃないの、と言い、ガイは眉尻を下げて、自分の震える手をみて、ほんとにな、と苦笑した。

ばかだよどうしようもないよ、なんでなんだろう、どうして、

そうして少女はついに嗚咽を上げながら泣き出した。声を上げることを我慢しているせいか、しゃっくりを起こしながら、泣いた。   
ガイはただ抱きしめてやれない自分の不甲斐なさをどうしようもないと思いながら、少女の背中をゆっくりと撫でた。
撫でながら、昔のことを思い出した。まるで昨日のことだと思えるほど、鮮明に思い出せた。
真白い部屋に、ちいさな子どもが泣くのを必死になりながら世話をしていた自分。子どもに関することを何も知らなくて、慌ててご機嫌を取っていた。嗚咽が酷くなるたびにどうしようもなく抱きしめていた。本来の理由、そこに居るワケさえ忘れて。
ああ、そうか。ガイはふと思い当たった。
だれに似ているのか。そうだ、自分も最近は常に思っていたことじゃないか、と背中を撫ぜる震える手を見る。
そうして昔の景色を、孤独に震えていた子どもを、思い出す。

(なぁ、ルーク。なんでお前は泣かないんだ)

少女は一向に泣きやみそうになかった。
嗚咽によるしゃっくりは酷くなるばかりだし、蹲ったまま立ち上がりそうにない。
泊まる予約をした宿屋の待合での出来事だったので、主人が心配して見にきたが、ガイはやんわりと大丈夫だと告げて、少女を促がした。
少女はガイの、差し出された情けなく震える手を涙で濡れた手で弱弱しく、だけど縋るように握った。
とりあえず少女が影になるように、出口まで導いて外へ出る。少女は自分が泣いてるところを、誰にも(特に、彼には)見せたくないだろうと思って雨上がりの外へと連れ出した。
雨上がりの外気は肌を刺すように冷たく、だけどガイにはその冷たさが今は心地よかった。揺らいでいた悲しみが急激に冷めていく。
だいじょうぶだいじょうぶ、と自分に言い聞かすように心の中で唱える。
それが、何に対する思いなのか知らない振りをして。

そうして、泣きやまない少女の背中を、撫で続けた。


作品名:the night of worldend 作家名:水乃