the night of worldend
04.一音一音
歌う声。
意味や象徴を理解しなければただの歌であるそれを、ガイは子守唄のように懐かしいと感じていた。
だけどきっと、その歌が彼のすべてを奪ってしまうのであろうことも、薄々と気づいていた。
ひとつずつの音を耳で拾いながら、ガイは砂浜でアニスとミュウとルークが遊ぶ姿を遠巻きに見た。
そうしてティアが口ずさむ音に自らも乗って、ちいさく歌う。
けして彼女のようにきれいな声でもないし、歌なんて滅多に歌わないので少々抵抗があるはずなのに、すらりと舌の上を滑って出た音に、驚いたのはティアとナタリアだった。
それでもティアは歌をやめなかった。
遠くを見やり小さく呟くように歌うガイの横顔をちらりと見て、すぐに目を閉じて歌に集中する。
子守唄のようなそれをただ繰り返す。そのうち、拙いながらもナタリアも歌いだした。
ティアの歌声に乗った音を聞き分けてか、砂浜で遊んでいたアニスが突然動きを止める。
ティア達には少し遠い場所からでも、音は風に乗って耳に届いていたから。きれいではあるけれど、どこか寂しい音色をしている。
それに急に込み上げてきた罪悪感や、これから起こるであろう喪失感を片手に持ったトクナガをぎゅっと握り締めて消そうとした。
突然止まったアニスに向かって、ルークの気遣う声が飛んでくる。ちょこちょこと歩み寄ってきた仔どものチーグルに覗き込まれて、アニスはすぐに笑顔を作った。
謝罪をすると、人形士としての力を発動させてトクナガを大きくしてみせ、大きく飛び跳ねた。ずどん、と豪快な音を立てたトクナガは、魔物と戦うときのように大きく、アニスが腕を振り上げるとトクナガも同じような動きをした。
ほーら、ルーク! いざ、しょーぶっ!
その様子を見つけたジェイドが、赤い目を細めて何も言わずに、歌う三人に視線を向けた。
歌っている意味や歌詞は同じであるはずなのに、それぞれどうしてこんなにも違うように聞こえるのか、とジェイドはただはしゃぐ子どもたちを見ながら、表情に陰を落とした。
作品名:the night of worldend 作家名:水乃