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前世を言ったら笑われるよ

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高校は、何事も無く穏やかに、それなりに大変に過ぎていった。
ちょっと背伸びした学校に入学しただけあって、俺様の成績は振るわなかったけど、伊達ちゃんや新しい友達が勉強を教えてくれたり。
相変わらず情報収集に余念が無かったから、またしても学内情報屋となってしまったり。
まあ、情報の取引先に、教師が増えたのが中学とはちょっと違ったけれど、気をつけて日々を過ごせば特に何事も無く平凡だった。
俺様は相変わらず部活動には入らなかったし、伊達ちゃんもそう。
級長をやって、でも、どこかから聞いた他校出身の連中から、会長と徒名を付けられて。近々、生徒会に立候補の予定。
休日は月に一度、寮から実家に帰ってくるチカちゃんと遊んだり。
武田道場には正式に入門をしたけれど、組手や演武がほとんど。実際のメインは旦那のお世話。
まあ、通う頻度は週に二度って程度。
旦那は大将の家に住み込みになってるから何時行っても居るし。
最近は夕ご飯を作って、それから稽古になってる。
そのうち家計簿まで任されるんじゃないかと恐々としている。

それで、今日は早めに道場に入ったけれど、旦那が一人で槍を振るっていた。

換気と明り取りのために、天井近くと足元だけについた小さな窓から夕日が差し込んでいる。
埃がきらきらしていた。
俺様は制服のままで道場に入り、鞄から出した足袋に靴下を履き変えて、上着を脱いだ。
中着はTシャツだったから、大体コレで着替えは終了する。
組手をしない限り、ズボンまで履き替える必要は無い。
旦那は俺様がそこまで準備を整えても、気付かずに槍を振るっていた。
大した集中力だ、と褒めてもいい。
槍で大きな円を描いている。
右回りに回す。連続して10回。次は、左に10回。
それを繰り返している。
右回りで相手の武器を巻き取り、左回りで相手の武器を弾く。
槍の基本動作だ。
突きの動作に移らないのは理由があった。
槍の穂先、といっても刃は無いのでただの棒切れみたいなものだが、その先に真紅の鉢巻が結ばれていた。
とても長い。頭に巻いても、なお腰まで流れるような長さのものだ。
ぐーるぐーると回る槍に靡いて、鉢巻も舞う。
紅い鉢巻が、下に一度も着かず。槍に巻き付きもせず。ひらひらと舞う。
きれいだな、と思う。
だから、ただ眺めている。
ふ、と動きが止まって、槍の先が床についた。
鉢巻もしおらしく板の上にわだかまる。
汗だくの旦那が振り向いた。 
「何度も言っておろう佐助。来たなら来たで声を掛けんか。」
「一応、入るときに挨拶はしたよ?失礼を申し上げます、って。
でも旦那、全然気付かなかったし、集中乱すのもなんか勿体ない気がしてさ。」
俺様は破顔して、胡坐座から立ち上がり道場の明かりを点けた。
「気を使わせたな。毎度のこととは言え、すまぬ。」
「毎度のことだけどね、謝るほどの事じゃないっていい加減憶えようよ。」
お互いに苦笑すれば、場が和んだ。
「腹が減ったな。もうこんなに暗かったのか。」
「・・・一応訊くけど、いつから槍回してたの?」
「昼食後の腹ごなしと思って始めたが、止まらなくてな。」
「・・・俺様は真剣に旦那の将来が心配だよ。」
「む。大学ならば、問題は無いぞ。・・・多分。」
「・・・・・それ、何処まで信じていいの・・・。」
半眼になって冷たい声を出せば、旦那は慌てて話を誤魔化した。
「それより佐助、夕食は?」
武田邸に出入りする誰よりも佐助が料理上手なため、佐助が道場に来た日は調理係に決定されている。
それで振られた話だったが、コレだけあからさまなことにも、絆される俺様自身にも呆れる。
「全く。生クリームが残ってたでしょ?それを使うってこと以外は未定だよ。何か食べたいものある?」
「うむ、ならばクリーム餡蜜がいい。」
「夕飯じゃないので却下。野菜は何か無いの?」
「野菜限定とは難問だな。強いて言うなら緑黄色、人参などだろうか。」
「人参ねえ。生だとビタミン壊すからサラダは駄目だし、グラッセも大量に食べるもんじゃないし・・・ああ、ポタージュにしよう。」
「うまそうだな、任せたぞ!」
「はいは~い。」
俺様は良い子の返事をして、道場を通過し武田邸の台所に立った。
武田邸には、旦那の他にも音楽家の卵たちが数人住み込んでいる。
その人たちが食べる分も、と食材は多めに用意されている。
日持ちする根菜類は段ボールで購入されているので、駄目になるまえに大量消費するタイミングを見計らうのが難しい。
ポタージュは時間帯が不規則な連中でも温めなおすのが簡単だし、生クリームも使い切れるし、良いだろう。
塩焼きした肉を混ぜ込んだサラダをつけあわせて、パンかご飯かはセルフサービス。
外国人も住み込んでいるので、純和食は月に一度しか作らない。手間かかるし。
佐助が来ると冷蔵庫が綺麗になるし料理も見事、と以前に武田の大将にも褒められた。
いや、そこ褒めて欲しいところと違うけど。
ちなみに俺様が作る食事は、道場に通う人も偶に食べていく。
ときどき料理の修業に来ているんじゃないかと彼方を見つめてしまう。

出来立ての夕飯を、旦那と一緒に食べる。
俺様はいつになっても、この時間に慣れない。
家族以外と食べる機会が少ないこともあるし、電波な記憶が、前世じゃ考えられないなーと囁くのでどうしようもない。
今は主従じゃなくて、兄弟弟子って考えても、やっぱり緊張する。
俺様はそそくさと食事を済まして、道場に戻る。
ここで漸く稽古になる。
この頃になると他にも誰かが稽古をしている。
俺様の稽古は、道場の隅で、割とスペースを使って贅沢に行われる。
だから曜日を火・木に決めて通っている。
個人個人の修行をしたい人が使う曜日にすると、俺様の入門と同時に大将が定めた。
その申し訳なさもあって料理をするようになったのだけど、元々練習試合のようなことを集中的に行いたい人との摩擦もあったから丁度良かったのだとは後で聞いた。
武田の大将にそこのところを訊けば、ニヤリと笑われた。
今日は真田の旦那が、調理中にスペースを確保してくれたのだろう。
俺様が使うレンガみたいなブロックが、既に万端に準備されていた。
プラスチックの細長いブロックが20個立てて、円を描いて並べられている。
ブロックは目の詰まった発泡スチロールより少し重さがある程度のもので、存外軽い。
円の中心に向けて片手を伸ばし、ブロックの上だけを歩いていく。
初めの頃はしょっちゅう重心移動を間違え、足を乗せたブロックを倒していた。
傍目に見るよりずっと難しいのは、試したことのある皆が知っている。
緩やかな動きと裏腹に、使う筋肉も相当ある。
右回り、左回り、片手片足に重しを着けてのバランス変化。
じんわりと汗ばんだ頃に皿洗いをして遅れて来た旦那が円の中心に入り込む。
親切のつもりか、単に面白がっているのか、そこから俺様に攻撃を仕掛けてバランスを崩させようとするのだ。
けれど、歩みを止めてはいけない。これが物凄く難しい。
足元に槍を置かれて、それを跨ぐ。
と思えば、目元に槍が伸びるので上体を反らす。
ひょい、と猫が引っかくように後ろ足を取られたり。
会話しながらそんな遊びともつかない鍛錬が続く。