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【臨帝】会えない日には/帝人視点【腐向】

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そう思えば花が萎むようにしょぼんと肩を落とした。ノートパソコンを起動させ適当な動画を眺めていたが少しも楽しいと思えず惰性な時間を過ごしていたが、時刻が日付変更線を越えた時点で「夜更かししようかと思ったけど…もう寝ちゃおう」と布団に入る事にした。しかし目を閉じたところで眠気は訪れず、微妙な苛立ちさえ覚えていた。

「おやすみなさい」と打ち込んだメールを呆然と見つめ送信ボタンを押せないまま、帝人は思いを馳せる。
ぼんやりと眺めている内青白く発光している液晶画面が、じわりと浮かぶ涙で滲んだ。会いたくて恋しくて、寂しくてたまらないと。
この十日間で帝人は充分すぎるほど、思い知った。自分がどれだけ恵まれていたかという事を。
いつも臨也の方から会いに来てくれるし連絡もしてくれるから愛情が常時補給される為、飢えを覚える事は無かった。
しかし会えなくなってから彼に依存していたと、痛感する。彼に愛され構われている事は、なんて贅沢なことだったんだろうと。

もう、ずっと会っていないような気さえする。会いたい。せめて声だけでも聞きたい。と何度も発信ボタンを押そうとして思い留まる。
彼の迷惑になる真似はしないと、付き合う当初から決めていたせいだ。彼の負担になんてなりたくない。嫌われたくない。だから我が侭も贅沢も言わないと。そして理性と欲望との間で葛藤した結果、おやすみなさいとメールを打つことを決めたのに。
おやすみと打ち込んだ言葉ばかり見つめ、既に三十分ほど経過していた。

(臨也さん、僕と逢わなくても平気、なのかな…)

おはよう、おやすみ。とだけある臨也のメールは美辞麗句などの装飾を付けない事務的なものだ。
以前メールを打つ文章や返事を考えるのが苦手だと漏らしたせいで、基本返事を必要としないメールのスタイルを形成してしまったのは自分のせいだ。しかし、他人の事など意に介さず傍若無人に振舞う折原臨也である。強引な面がある彼だし、少し位メールで愛を囁いてくれたっていいんじゃないかと自分が一切そんなメールをしないことを棚に上げ(一度「俺のこと、愛してる?」という臨也の問いかけメールに「あいしてます」と返事をしかけて、あまりの恥ずかしさに即打ち消し、「ええ、まあ」と返事をかえした事もあるが)臨也に釈然としない感情を抱いた。

(いつもは、一杯、好きだとか愛してるとか言うくせに…)

ここ数日で臨也から送られたメールを目で追うと、おはよう、おやすみ。という簡素なものだけで、帝人が求める甘い言葉は無い。
色気のない文字を追いかけるうちにまた一粒、感情の雫が零れ落ちた。

「あいたいです」

と無意識にメール本文を打ち込んだことで、胸の奥がズキンと痛む。彼が欲しいと本能が求める訴えが思考を埋めていき、もう限界だと。彼に逢いたくて逢いたくて、たまらないと――送信ボタンを押そうとした瞬間。

「え、臨也さん?!」

思いを巡らせていた愛しい人からのメールに帝人はガバッと飛び起き、ドキドキと緊張に震える指先でボタンを操作した。

「おやすみ。帝人くんに会えなくてさみしいから、寝られないと思うけど」

目を見開いた瞬間ぼろりと涙が零れ出し、全身があたたかな幸せに包まれた。
彼と自分は同じ思いを今、共有している。彼も同じように自分を求めてくれている。それだけでもう、充分だ。
今だって逢いたくてたまらないけれど、このメール一つでなんとか耐えられる。
ほっと安堵の息を吐いた帝人は、何時ものように「おやすみなさい」とメールを送った。
でも、これだけじゃ彼がくれた想いを返せたとは言えない。それに――少し位甘えてみせても、いいだろうか。と帝人は胸をドキドキと熱く震わせながら「僕もです」と打ち込む。こんなことを言って迷惑がられないだろうかと不安に思ったが、覚悟を決め「えいっ」と小さく声を上げ送信ボタンを押した。
読んでから臨也さんは、どう思うだろうか。なんて反応を待つ時間は僅かの間で、ダイレクトな着信音が室内に鳴り響いた。

「えっ?!」

素っ頓狂な声をあげた帝人は「怒ったのかな…?!」と不安に脅え慌てながら通話ボタンを押し、ゴクンと息を呑んだ。

「…はい」
「もしもし?帝人君?」
「はい」
「会いたいって、言ってよ」
「……」

久々に聞けた声が嬉しくて自然と頬が緩むが、何時も聞かせる艶めいた美声に、どこか焦りの色が滲む。
臨也も自分を求めてくれていると充分に判るその声が聞けた事で、帝人の胸は深い感動に包まれた。

「もう直ぐ仕事片付くんだ。車でそっち行くから、待ってな。いいね?」

これは夢じゃないだろうかと思うが、ドキドキと刻むリアルな胸の鼓動が夢じゃないと証明している。
甘えても、いいんだろうか。無理しないで休んで下さい。来なくていいです。と言うべきなのは判っているが、甘えても――

「はい。待って…ますね」

抑えきれない愛しさが導くまま、帝人はそう告げた。
もうすぐ、もうすぐ。大好きでたまらない臨也に逢える。その事が只嬉しくてすっかり浮かれていたのだが、自分がパジャマ姿であることに気付く。

「わ、臨也さんが来るのにパジャマとか…!」

慌ててパーカーとジーンズに着替えた帝人はトイレの脇にある小さな鏡に姿を映して身だしなみを確認する。すると髪を適当に乾かしたせいで、毛先があちこちに跳ねていた。

「何この頭、ダメだよこんなの!」

蛇口を捻り凍りつきそうな冷水で手を濡らし手櫛で髪を撫でつけ、なんとか髪形を整えることに成功し胸を撫で下ろす。
そしてこの寒い中着てくれる臨也を持て成さなければと思い至った帝人は、台所で湯を沸かし始める。ティーパックの紅茶とカップを取り出し、先ほど仕入れたポテトチップを用意した。準備が済んだと思ったところで、布団を片付けていないことに気付く。

「布団…もしかしたら使うかな?」

もわもわと桃色の妄想が過ぎり帝人は慌てて頭を横に振ってそれらを散らしたが、今日は銭湯に行って身体を綺麗にしていて、良かったなと妙な安心感を覚える。布団を片付けようか。でも、使うかもしれないし。と恥ずかしい悩みを抱えていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえて。

「わわ、来た!」

と緊張に身を包みながらドアをそっと開け、ドキドキと胸を高鳴らせながら臨也を出迎えた。

「あっ。こんばんは、臨也さ…っ?!」

漆黒のロングコートに身を包んだ臨也は駆け込むようにして玄関に上がりこむと帝人を腕の中に収め、きつく抱きしめると同時に荒々しく唇を重ねてきた。

「ん、っ…ふっ、…んんっ」
帝人の吐息ごと全て奪うように深く重ねられた臨也の唇はとろけそうに柔らかくて、どんなお菓子よりも甘くて美味しい。
久しぶりに味わう極上の甘味に酔いしれた帝人は、もっともっと、欲しい。と強請るように自ら舌を絡め、臨也の胸にぎゅうとしがみ付いていた。


END