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自分の記憶には責任を持ちましょう

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平和島静雄にはこれ以上後悔することはないだろうことが一つだけある。
 それは目の前でナイフを突き出し、「見逃してよ、シズちゃん」と言う男―――折原臨也と寝たことだ。
 誤解のないように言っておくが、平和島静雄は同姓愛者でなく、ましてはバイと呼ばれる両刀使いでもない。この池袋にはそういう気の者もいて、昔はバーテン服など着ていなかったせいか迫られたこともなきにしもあらずだが、そういう相手には自分流に丁重に断ってきた。つまり、なにが言いたいのかというと、平和島静雄は今まで男に迫ったことはなく、健全な男子として豊満な女性が好きなのだ。
 それがこの常に理屈をこね回している折原臨也のせいで揺らぎ始めている。
 それを思うとまたムカついてきた。
 静雄は横に立っていた道路標識を手にとり地面から引き離した。あまりの怪力に傍観していたギャラリーは唖然とするが静雄には関係ない。臨也めがけて一直線に振りおろす。
 大きく振りかぶったせいか、臨也に軌道はばればれで案の定、体をほんの少し右にずらされただけで簡単によけられた。だか、それは静雄も想定済みだ。道路標識が地面につく前に、さらに右へとフルスイングする。それは臨也の体にあたり、臨也が壁にたたきつけられるはずだった。
 手応えはあった。しかし道路標識は臨也にあたらず何かに押しとどめられている。
「シズオー、ケンカはヨクナイネ」
 片言の日本語を話し、寿司屋の呼び込みをしている黒人―――サイモンだ。
 唯一力で静雄と対等に渡り合える相手だが、サイモンは温厚な性格のため主に静雄とケンカするというよりは止めに入ることが多かった。今日もどこからか聞きつけてきたのか、はたまた出前の途中だったのかはしらないが、静雄と臨也のケンカを止めに来た。
「止めるんじゃねぇ! 俺はあのノミ蟲を殺さなきゃ気が治まらないんだよ!!」
 静雄は後から殴ったことをサイモンに謝りに行くくせに、ケンカをしているときは破壊することしか頭にない。
「あはは、ばいばい。シズちゃん!」
 サイモンが静雄を止めに入ったのをこれ幸いと臨也は身を翻して逃げいていく。
「待ちやがれ! 臨也!!」
 周囲の人間のことも考えず、逃さないとばかりにそばにあったコンビニのゴミ箱を振りあげて投げたが、これもやっぱりサイモンに止められた。
 その隙に臨也は人混みに紛れ、そして池袋の雑踏に消えていった。
 静雄はやり場のない怒りを押さえ込み、振り回していた道路標識を地面に下ろした。
 胸ポケットからたばこを取り出そうとしたが、中身はあいにくと空だった。静雄はいらだちと共にぐしゃりとたばこの箱を握りつぶす。
 臨也が消えていった方向を見ながら、とある朝のことを思い出す。