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愛する者の剣と盾

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01.はじまり



 赤林さんの大切なものに順番をつけるとしたら、一番は間違いなく茜ちゃんだ。二番は恐らく、園原さん。そして三番が粟楠という組織そのもの。そしてその次に、私の存在があるのだと思う。
 私はそのことを少しも悲観していない。むしろ、四番目(まあ四番というのも私の希望的観測なのだけど)であって良かったと思っている。これは本当に本当。嘘偽りのない、私の本心である。

 だって私以外の3つは、赤林さんという人物の根幹を成しているものだから。

 3つのうちどれが欠けても、今の赤林さんは存在しない。そして僕は、今の赤林さんのことが好きなのだ。大好きな赤林さんが大切にしているものは、私にとっても大切なもの。だって私の一番は赤林さんだから。
 そんなわけで四番手であることに全く不満はないのである。もちろん、その四番手からも漏れていたら少し…いやかなり、不満かもしれないけど。
 ともあれ自惚れであるとしても、今の赤林さんのなかで私の存在は四番目。名誉の四番だ。

「みーちゃあーん!」
「……その呼び方だけはどうにかなりませんかね、赤林さん」

 公衆の面前で大人気なくも抱きしめてきた赤林さんに憎まれ口を叩く。…のだけど、実は嫌ではない。いやもちろん、嫌じゃないのは抱きしめられたということだけで、呼び名については別である。だってできれば好きな人には名前を正確に呼んで欲しいっていうのは、女子の正当な欲求っていうか、なんていうかその、うん。

「で、園原さんはそっちですよ。抱きつく相手を間違えてます」
「やだねぇみーちゃんはつれなくって。おいちゃんが抱きつきたいのはみーちゃんだけよ」
「はいはい」

 赤林さんは、きっと私が赤林さんに恋をしていることに気づいている。だからわざとこういうことをするのだろう。最初はそう思っていたけど、最近はそうでもないのかな、と思い始めている。もしかしたらそれが罠なのかもしれないけど。

 赤林さんは元々、ダラーズの創始者であり園原さんの友人でもある私を監視するために接触してきた。粟楠に、園原さんに危害を加える存在か否かを見定めるために。だから私が何か不穏な動きをしたら、即座に切り捨てにかかるだろう。それは多分、今も変わらない。

 それに比べ、私はどうだろう。
 こんなにも赤林さんを好きで…、というか本当に恥ずかしいのだけど、心底愛していて。私は、赤林さんを裏切ることはできない。だからきっといつか、私の片思いは最悪の形で終わりになるだろう。そんな予感はずっとしていた。
 それでもいいから傍にいたいと思ってしまうほどに、私の恋心は膨らんでしまっているのである。

「竜ヶ峰さん?」
「なーに難しい顔してんのかな、この子は」

 園原さんの声で我に帰る。そして物思いにふけっていた僕のおでこを、赤林さんの人差し指が軽く押す。ふとしたときに優しい、あの指が好き。手を繋げたらもっと嬉しいのに、と思ってしまう。

「なんでもないですよ」

 ああ、この人を好きでいられるうちに死ねたら、私はどれだけ幸せだろう。





作品名:愛する者の剣と盾 作家名:神蒼