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デフラグ

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 ゆらゆら浅瀬を漂うばかな俺を、あっさり掬い上げてしまうような君を助けたいと思ったのは嘘じゃない。
 俺に触られるのが不安だと言った君に、慣れればいいなんて思いつきで提案した。その時のあいまいな笑顔はそれから何度か居残りをするたび見かけるようになる。こんな俺でも誰かの役に立っている、そういう思い上がりは錯覚だった。

 最初に裏切ったのは俺だ。
 首筋、鎖骨、あばら、腹筋、腰骨。順番に俺の手が辿ると君は小さく息を吐き、瞼を伏せる。
 その仕草にごくりと生唾を飲み込む。
 異常だと気づいたときには、栄口に触れることはもはやボランティアではなくなっていた。

 練習を終え家に帰りメシを食い風呂に入りへとへとの身体をベッドに預けても、思い出すのは栄口の感触で、疲れた身体とは裏腹にざわざわと下腹部に熱が集まってくる。
(おかしいよやめなよ、だって友達じゃん、栄口じゃん)
 栄口の日焼けした肌としていない白い部分の境目に思いを馳せたら、そういう良識は軽く吹き飛んだ。ああ嫌だ、若さはすぐに余裕を無くし、周りを見えなくする。君のうなじのあたりの匂いを思い出し、握る手の速度が加速する。さかえぐち、さかえぐち、うわ言のように呟く声がなんだか自分のものじゃないみたいだ。もうちょっと、あと少し。君が僕に取り縋り喘いでいる姿を頭の中で描いた瞬間、衝動はあっさり外に出てしまった。手のひらに出した生ぬるい感触にふと我に返る。
(どうしようもない)

 鬱積してゆく想いを抱えながら、しかし今日も部室で待つことをやめず、俺は何も知らない君を抱きしめる。後ろから胴へ手を回すと、首にかかった俺の髪がくすぐったいらしく身体をよじらせた。少し低い君の体温が俺によってだんだん温まっていくのが好きだった。本当に、好きだったのだ。
 でも今は違う。たとえば俺が栄口の白い鎖骨に噛み付き、かすかに震える睫毛にキスをしたらどうなるだろう。たとえば今よりいい顔をする?聞けないような声を上げる?そんなことばかり考えている。
(……触りたい、もっと肌に、日の当たらないところに、隠されたところに、さわりたい、もっと)
 いつの間にか手は正直に動いていた。驚き振り向いた栄口に、俺はばつの悪い顔をするしかなかった。
「……変だよな」
 侮蔑と罵倒でもって突き放して欲しかった。けれど栄口はなにも言わず、その動揺した目で俺を見つめるだけだった。
作品名:デフラグ 作家名:さはら