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[ギルエリで]お誕生日おめでとう!

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――――奴は忘れたと言っているけれど、私は忘れたことはありません。

 ハンガリーさんはクローゼットの床面収納の蓋をえいやと開けた。
 力自慢のハンガリーさんでも若干気合いを必要とする床面収納は、開けると地下へ続く梯子がついている。
 そこを降りると、ハンガリーさんが両手を広げられるくらいの広さの収納小部屋があり、かつては色々ばれたらまずい活動をしている人間をかくまったり、非常物資を蓄えたりしていた有能な小部屋には今、カラフルな包装済みの箱が山と積まれている。

――――そりゃあ、奴が忘れても私が忘れられるわけはありません。

 ハンガリーさんは腰に手を当てた。
 これは去年の誕生日の、こっちはバレンタインの、で、こっちは統一記念日のでこれがクリスマスの。
 包み紙を見れば、いつどこで買ったものか全て思い出せる。積み上がっているのは、渡せなかった歴代のプレゼントたちなのだ。

 普段は偉そうで我儘でなんだかんだ欲しいものを騒ぎ立てるくせに、記念日の贈り物のようなちょっとした物は受け取りたがらないし求めても来ない。それはなんだか気持の籠ったものを避けているようにも思えて、ハンガリーさんも渡すタイミングを慎重に見測らざるを得ない。
 で、ハンガリーさんも普段はちょっとしたことぐらいじゃ関係が揺らがないと思っているから、なんでもない日にちょっと焦げたトルテをお土産にお茶をたかりに行くくらいは余裕なのだけど、こうして記念にとっておいて欲しいものは、何週間も前から熱心に選んで、お菓子や花と一緒に家まで持って行って、なんだかんだ話をしても結局渡しそびれて持って帰って来てしまう。
 いつ選んだどの品物も、その都度心をこめて選んだものだから、すげなく断られたらちょっと傷つくかなあとハンガリーさんも思う。
 押しつけがましくなく、さりげなく、でも、いらないからってすぐに弟や友達に譲渡されてしまうのではちょっと切ないので、それなりに手元に置いて欲しい。
 そんな贅沢を言ってみた結果がこれです。

――――忘れてなくても、祝えた試しもありません。

 ハンガリーさんは年季の入った木箱から小さなぬいぐるみを取り出す。
 赤い目のウサギのちりめんのぬいぐるみはもう100年も前に日本へ旅した時の。
 中にはアズキが入っていて、ちょっとずっしりしていて手に馴染む。
 宝石や文房具や服や靴や帽子は、案外流行り廃りが早くて、数年渡しそびれているうちに完全にタイミングを失ってしまったので、遊び心方面に思い切り偏ってみたのがこのぬいぐるみだった。
 呉服屋の店頭にちょこんと並んでいた白くて平べったいぬいぐるみは、端切れを継ぎ合せて作ったものだと聞いたけれど、色合わせといい、手のひらにすっぽり収まるフォルムといい、絶対あいつが気に入る! と勢い込んで買ったはいいけれど、当人は自分が可愛いものが好きだとかたくなに認めていないのでやっぱり渡しそびれた。

 ケーキや花はみんなと一緒に楽しめるけれど、記念品はどうしても手元に残って一対一の想い出になってしまうから駄目なのかな、とハンガリーさんは案じる。
 私があげたって分からないようにして渡したら使ってもらえるかな、と、預かり物と偽って箱を押し付けてみたりもしたけれど、さりげなく帰りに「忘れ物」と返されてしまう。
 ハンガリーさんの乙女心はそれほど丈夫にはできていない上に、とにもかくにもアイツは一番ヤワな部分に陣取っているので、そんな風に手元に戻されてしまった品物を、さりげなくもう一度渡すなんて芸当はとてもできないのだった。

 そして、ハンガリーさんは今年、ついにひとつ決心をした。

――――渡す勇気が出ないなら、もうプレゼントは用意しない。

 年に何度か、プレゼントをしまいこむために開けて、過去のプレゼントを眺めてため息をつくのは恒例行事だったけれど、それを繰り返すうちに、心にこびりついた負けフラグがどんどん固く大きくなってきた気がして。
 渡せないかもしれないとうじうじするのなら、いっそのこと勇気が出るまで買うのはやめようとハンガリーさんは思ったのだった。

 で、弊害がひとつ。
 今まではプレゼントを渡すために、なんとしても当日中に会う口実が必要だったから、前日までにはなんだかんだと生ものを用意して足を運んでいたのだけれど、肝心の動機がなくなってしまったので、生ものを用意する踏ん切りもつかなくなってしまった。
 毎年毎年誕生日にお菓子と花を持って行くと言っても、いつもさらっとお茶でも飲んで帰るだけだし、そんなに重大な意味はないんだけれども、一つスイッチを切ったら一緒にそっちのスイッチも切れてしまったようでどうしても本腰が入れられなかった。
 
 だから、いったい何年ぶりなのか分からないくらい久しぶりに、ハンガリーさんは1月18日を一人で過ごしていた。

 手のひらにしっとり馴染んだうさぎのぬいぐるみを撫でさすりながら、ハンガリーさんはプレゼントの墓場を見渡す。

――――いつか、これがみんな彼の手に渡る日が来るのかな。そんないつかは本当に来るのかな。

 絶対似合うシリーズ、絶対便利シリーズ、総じて絶対喜ぶシリーズ、とハンガリーさんが内心で呼んでいる特選プレゼントシリーズ。
 それこそ、誰かに譲って有効に使ってもらわないと、買われたものが可哀想だ。
 でも、これはいつか彼の手に渡って欲しい。
 渡す勇気がいつか奇跡のように湧いて出てくる日があったら、彼に全部渡したい。
 ハンガリーさん的には、渡す勇気はないけど全部渡したいという気持ちには一つも嘘がないけれど、その代わり絶望的な矛盾をはらんでいて、やっぱり事態はにっちもさっちもいかない。
 
――――いつからこんなぐじぐじ悩むようになったのかなあ。

 ハンガリーさんは深く落ち込んだ。何よりも、諦めが悪くて踏ん切りもつけられない自分に呆れて、困惑した。
 うさぎのぬいぐるみを手のひらに乗せたまま、情けなくってぼたぼた涙を落し始めた時に、不意に収納部屋の天井がガタンと音をたてた。
 猫でも入ってきたのだろうか。
 鼻をすすりながらハンガリーさんが見上げると、ぎしぎしと梯子を軋ませながら、プロイセンが降りてくるところだった。

「!?」
 ハンガリーさんは油断してティッシュもハンカチも持っていなかったので、あふれ出た涙とか鼻水とかを処理することができずにあたふたした。
「お前こんなところにいたのか」
 必死に背中を向けようとしたところを捕まって、後ろからハンカチとティッシュを渡される。
 慌ててなんとか目と鼻を拭いて振り返ると、プロイセンは積み上げられたプレゼントをそっけなく一瞥して、興味なさそうにつま先をこすりあわせていた。
「ありがとう…あと、何の用?」
 早くこの収納からプロイセンを追いださないとバレてしまう! 焦ったハンガリーさんはプロイセンにティッシュとハンカチを押し付けるように返すと、梯子に向けてぐいぐい押しだした。
「な、何の用ってお前、なんで今日来ないんだよ」
「だ、だって」
 行く理由がないじゃない、と言いかけてハンガリーさんは飲みこんだ。