アウトローNo.
「オレにはね、分かっていたんだ。君は根本ではオレたちとは違って、けれど、そんな君を変えることはオレにはできないこと。でも、彼は違った。円堂は、君を動かした。そのことだけがどうしても、悔しくて堪らない。君に試験で負けたとき以上に、今、悔しいんだ」
額から下りてきた手と、顎から上がってきた手、両手に頬を掴まれたバダップはまじまじとミストレと見つめ合う。
「お前が俺に勝っているものは何だ」
少しだけおかしな表情をしたミストレはややあってその言葉の意味を思い出した。以前負け惜しみとしてバダップに言い放ったものである。バダップがそれを覚えていただけでも暁光だ。
「昔の君なら、決して求めなかっただろうことだけれど、……そうだね、」
爪先に力を込めたミストレは、体重をバダップへと傾けながら、その朝露に濡れた花弁のような唇を薄く開いた。相手の唇をそれで覆ったミストレが僅かばかりで離れる。ゆっくりと目を見開いたバダップが絶句しているのを認めたミストレは、今まで見せてきた伶俐さを含む微笑みとは違う、恥じらう乙女のような、それでいてどこか男の色香を匂わすような微笑を浮かべた。
「やっぱり君には、まだ早いようだ」
とうとう有力な答えを聞き出すことも出来なかったバダップは、それ以降、思考に費やす時間がより長くなってしまった。相も変わらず日常をそれらしく演技するミストレをバダップは初めて、脅威だと感じた。