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みっふー♪
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NAMEROU~永遠(とき)の影法師

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「これこれ、お行儀が悪いですよお嬢、」
マ夕゛オさんに窘められて、チャイナ上着にチャイナパンツの母さん(……。)はその場にひょいと逆立ちをした。
「これでいいアルか?」
「なるほど、発想の転換というヤツですね、」
先生がぽんと手を打った。それから、何やら突然閃いたのか、足元の石灰岩の小石を拾ってウチの板塀に延々複雑な数式を書き始めた。難解式の連なるまま、塀伝いに家を出ていって、おそらく学校に着くまで脇目も振らずにあの調子なのに違いない、
「せっ、先生っ!」
ダンナが慌ててあとを追った。
「……。」
ホント、すごくいい人だとは思うけど、僕にはときどき少しついていけない。その点皆僕と同意見らしく、――ヤレヤレ、その場にいた約一名を除く全員が肩に短い息を付いた。
「――よっ!」
逆立ちからくるくるしゅたっ! 母さんが華麗なアクロバット宙返りで縁側に降り立った。
「朝トレしてお腹すいたね、ゴハンまだアル?」
母さんはさもあたり前のように僕に催促した。……この人は、このアルアルチャイナ娘のこの少女は僕の父さんの新しい奥さん、つまり続柄的には僕の母さんにあたる人ってわけだ。なんと僕より二つ三つ年下らしいが。
父さんとは河原のジョギングコースで知り合って、意気投合して場の勢いでその日のうちに籍を入れたらしい。僕に事前の相談は一切なかったが。……別にいいけど、父さんの人生だからね、父さんは今まで僕に十分良くしてくれた、父さんの新しい門出を祝う気持ちは僕にだってちゃんとある、……だけど、だけど。
「すぐに仕度します……」
よろよろとお勝手に向かう僕の背中に、
「ゴハン大盛りねーーーーっっっ!!!」
母さんの暢気な声が負ぶさった。ああ、ずしりと肩が重い。なんせ食事の度、三度三度がこうなのだ、――ボクはあの人のおさんどんをするために父さんの息子に生まれてきたんじゃないっ! 一度は思い余って父さんに直談判を試みたこともある、
「……わうっ?」
わうリンガルを通したところ、父さんの言い分はこうだった、――まぁまぁ、あの子も食べ盛りだから、自分の食欲が落ち着いたらちゃんと私たちのことも考えてくれるようになるさ、それまで気長に待とうじゃないか、なっ?
「……。」
――あのひと言がこの長さかいっ! 余りにも凡庸すぎるツッコミしか用意できなかったことに僕は我が身を恥じた。絶望した。早すぎたのだ、こんな、ツッコミスキルもままならない僕が生意気にも父さんに意見するなんて、とりあえずいま僕のやるべきことは、母さんのおさんどんをきっちりこなすこと、そしてツッコミの腕磨き、そうして自分に言い聞かせることで僕は日々を耐えてきた。
(……。)
……けどもう限界だ、炊飯器のタイマーを確かめて、水を張った大鍋にスライスしたじゃがいもと頭とはらわたを取った煮干しをドカドカ放り込みながら僕は思った。
だって年下の母さんだけならともかく(ともかく?)、住み込みコーチって何なんだよ! ドコのげんぞーぼっちゃんだよ! GSGK気取りかよっ! 母さんが自分の修行にどうしても必要だからってある日突然どこかから連れ帰ってきたのだが、マ夕゛オという通り名と常にグラサン着用であるということ以外……、
――パーー、プーー、
表に納豆売りのレトロなチャルメラが響いた。いまいち豆腐屋と紛らわしいけど、あれがこのあたりの納豆売りのスタイルなのだ、てゆーかフツーに豆腐売りでいいじゃんねーって、先にじゃがいもとねぎの味噌汁、っていうプロットができてたもんでそっち優先したらしいよ、……ってちょっとボク自分でも何言ってるかよくわかんないッス、
「くっださいなっ」
僕はたらいを引っ掴んでお勝手口から表へ出た。
「まいどっ」
ゆるキャラの着ぐるみに引かせた台車の傍らで、黒髪ロンゲの優男のにーちゃんが、無駄に爽やかさを振り撒いて威勢のいい声を上げた。
「いつものやつで」
僕はたらいを差し出した。
「あいよっ!」
――ダスダスダス! わらづとにくるまれた納豆が、たちまちたらい一杯に積み上げられていく。しょうがないのだ、このくらいの量、ウチの母さんときたら一食でぺろり、なのだからして。
「じゃあコレ、」
僕は月額に換算すると馬鹿にならない額の納豆代をにーちゃんに支払った。
「ハイお釣りさんびゃくまんえん!」
小銭を手に意気揚々とにーちゃんが言った。
「どっ、どうも……」
僕は受け取ったお釣りとたらいを抱えてそそくさと場を離れた。毎朝毎朝このやりとりも、いい加減しんどいものがある、
「――わぁっ!」
台所に戻ると味噌汁の鍋が噴きかけていた。急いで煮干しを取り出して火を弱め、床下の味噌甕から味噌を用意する。銅の焼き器で卵焼きをこさえ、グリルで人数分の干物を炙り、ダシダシねぎを刻みながら、……で、どこまで回想したっけ、あ、そうそう、――グラサンコーチの素性はそれ以上まったくわからない。
彼も居候の身で、最初のうちこそメシを食うのも遠慮がちだったが、この頃じゃこってり派の母さんと別メニューで、中年の胃に優しいさっぱりメニューをそれとなくさりげなくリクしてきたりして、これがなかなか抜け目ない。今でこそああだけど、もしかして昔はスゴイやり手のキャリアかなんかだったんじゃなかろうか、無精髭のくたびれ半纏姿からは想像もつかないが、たま〜にグラサンの下の視線がギラリ鋭い、よーに見えることが(も)ある。
で、その上だ、こうしてくたびれ果てた僕のココロに、さらに容赦なくトドメをさしてくれるのが例の離れの新婚バカッポー★なのである。……いや、いい人だけど、ダンナはともかくカッ飛んでる先生の方は、しかしそう思ってはみるものの、僕だって人並みに思春期だもの、――ワケあり夫婦と思ってこっちがエンリョしてやってりゃあ、てめぇらいちゃいちゃチョーシこいてんじゃねーぞっ!! たまに殺意の沸くときだってある、
(……。)
僕はお勝手にひとり溜め息をついた。このままでは、人としてどんどん駄目な方向に自分が捩れていくのがわかる、――……姉上! 僕は不意に思い出した。
そうだ僕にはまだ姉上がいる、しばらく事情を話して姉上のところに置いてもらおう、嫁ぎ先に押しかけるのは気が引けるけど、……なぁに、あっちのダンナは姉上にゾッコンなんだから、義理の弟の僕だって悪いようにはしないはずさ、ウンそれがいい、どうして今まで思いつかなかったんだろう、そうしよう、
「ただいまー」
そのときだった。玄関から覚えのある声がした。
(――姉上?!)
――まさかそんな、このタイミングで、僕はまな板に包丁を置き、胸に過ぎった一抹の不安を必死に打ち消そうとした……。


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