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みっふー♪
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NAMEROU~永遠(とき)の影法師

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天パのにーちゃんに連れて行かれた店は、マシュマロ通りから入り組んだ路地を抜けた先にあった。垢抜けない外装、煤けた看板に踊る『スナツク』の文字。周囲を見渡してみても、同じような荒んだ雰囲気の飲食店がいくつも軒を構えている。
「えっ? ここですか?」
僕の戸惑いはつい声になって表に出てしまった。にーちゃんがガンを効かせて振り向いた。
「……見た目で判断するヤツぁ、人間のクズだぜ、」
にーちゃんは肩に風を切ってスナックの扉に手をかけた。――♪カララン、多分にノスタルジックを帯びた響きが、――ああ、なんかこの人たまにポロッといいこと言う、的な僕の誤った認識を助長した。
「おーい、ば……、マッダームッ! 客サンだぜ、」
にーちゃんがカウンタ―の奥に呼びかけた。空っぽのカウンター席を含め、薄暗い店内はガランとしていて、そもそも今が営業時間中なのかもわからない。
「……なんだい、どこのモノ好きだい、」
やや間を置いて、店の奥から暖簾をくぐって現れたのは、これまた天使とも天女とも程遠い、何というか、全体に人生のドスの効いた和装のマダムだった。にーちゃんの後ろの僕に一瞥をくれると、マダムは煙管の煙をフゥと吐いた。他はてんですかんぴんだけど、黒繻子の着物と細工彫りのあの煙管だけはそれなりの品物のように見えた。
「アンタ、若いのに人生踏み外したいのかい?」
「……えっ?」
僕の困惑に拍車がかかる。これでも僕はいちおう天国に招かれた身であって、それはでたらめな人生送ってきたわけじゃないというある種証のようなものでもあって、……よーするに、僕はきわめて真人間なんですっ、というようなことを、拙いながらも僕は懸命に主張した。
「――……、」
――フッ、紫煙を燻らせ、目を閉じて聞いていたマダムが鼻で笑った。それからカッと目を見開いて言った、
「真人間も何も、要するにアンタはただのヒヨっ子で、天国行きか地獄に落ちるか、のっぴきならない修羅場に出くわしたこともない、ただそれだけのことだろ」
「……それは、」
僕は言葉に詰まった。――どうなってるんですか、ホットミルクコースとか全然関係ないじゃないスかっ、なのに後ろを振り返ってみても、僕をここに連れてきた当のにーちゃんは自分ばっかり、カウンターの丸椅子に腰掛けてちゅーちゅー無心にパック入りのいちご牛乳を啜っている。
(……。)
――ダメだ、あの人はあてにならない、なのにそんな人にうっかりダマされて、……確かに人生経験の足りなさを指摘されれば僕に反論の余地はない。だけど、それは僕はまだ半分子供であって、それをマダムみたいな横綱人生の人と比べられること自体、逆に反則なんじゃなかろうか、
「……なんだい、ダダッ子はもうシマイかい?」
むっつりと黙り込んだ僕を見て、煙管を手にしたマダムがおかしそうに肩を揺らした。
「てんでハナシにならないね、もっかい向こうで修行してきな、」
マダムがトン、とカウンターの端で煙管を叩いた。
「――えっ」
突っ立っていた(そう言えば座席にすら着かせてもらえていなかったのだ僕は)僕の足元にスコンと丸い穴が開いた。
「――……ちょッ、」
僕は慌てたが、もはやどうすることもできなかった。
「ちょっとーーーーーーッッッ!!!」
為す術なく奈落へ落ちていく僕を、ぽっかり空いた穴の入口から、いちご牛乳片手に覗き込んで天パのにーちゃんが言った。
「コンシュルジェサービス料金は、あとで請求しとくからーーーーっっっ」
「知るかーーーーーーーーッッッ!!!!!」
重力の闇に引き摺られながら、全身全霊、魂を込めて僕は叫んだ。


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