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NAMEROU~永遠(とき)の影法師

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epilogue ツカツクリの工場にて



あれから、真のラスボスだった巨大ガニを共闘で倒した僕とマ夕゛オさんは洞窟を出て、海の見える活火山の側の砂地にある工場で働き始めた。
仕事は、噴石等多少の危険はあるが、工場の砂地の穴にあちこちトリが産みつけたタマゴを捜して歩くのだ。希少価値のあるタマゴは美味かつ滋養たっぷりで、各星雲のグルメ便おとりよせやら、セレブな観光星人客相手に結構な需要があった。週一半ドンにして週一の休みを取っても、僕とマ夕゛オさんが二人つましく暮らしていくには十分な稼ぎになる。
晩酌の第三じゃない発泡酒片手に、――こんな暮らしも悪くないもんだな、マ夕゛オさんだってそう言って楽しそうに笑っていたのに。
なのにある日突然、浜に置き手紙を残してマ夕゛オさんは僕の前からいなくなった。
砂地に直接書かれた短い手紙には、『さよなら』の言葉だけがあった。その脇に、申し訳なさそうにちょこんと、ゴムで縛った通常サイズの毛ガニとタマゴが置いてあった。近場にいくらもある地獄温泉で茹で上げたものだろう。シャイなマ夕゛オさんなりのせいいっぱいの誠意なのかもしれなかった。
「……」
僕は砂浜にしゃがみこんで、マ夕゛オさんが残した四文字を指でなぞった。ぱたりと落ちた涙が眼鏡に溜まって、レンズの屈折を変えた。読み取れなくなった文字を僕は手のひらでぐしゃぐしゃに掻き消した。
一、二、三……、声に出して、十まで数えて立ち上がる。濡れた眼鏡を着物の袖で拭いて掛け直す。
――マ夕゛オさん、契約の関係もあるし、僕はもうしばらくこのままここで働くことにするよ。中途脱走で契約違反のマ夕゛オさんの分までね。例え工場長から嘴曲げてペナルティを課せられたとしても、僕はマ夕゛オさんを恨みに思ったりしない。むしろ愉快なくらいさ、だって今度マ夕゛オさんに会うとき用の貸しができたんだからね。決して強がりなんかじゃない、……それにさ、新しい商売のことも考えたんだ、浜に流れ着いたワカメを拾ってきて、塩蔵ならぬ火山灰ワカメを作って売り出すのさ。火山灰の細かい粒子がワカメの水分をうまいこと吸収して持ちがどーたらこーたら、確か何かで見たことがあるんだ、商業ベース的にうまくいくかどうかはまだわからないけどね。
(……――、)
僕はひとつ深呼吸した、
――ねぇマ夕゛オさん、今度僕に会うときは僕はきっとワカメ長者だよ、
僕はそのまま天を仰いで手をかざした。ぐるり砂浜を囲む火山がドッカンドッカン、地底のマグマ溜りから真っ赤な溶岩を吐き出している。なのに空はあんなにも青くて、それはどこか僕の胸を覆う透明なかなしみにも似ていて……、なんてね。浸り切った滑稽な悲劇を裏返して、僕の口元に自然薄い笑みが浮かんだ。


《NAMEROU〜永遠(とき)の影法師:完》