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みっふー♪
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NAMEROU~永遠(とき)の影法師

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「ちわーッス!」
――えりざべすクリーニングでーっす!
一触即発のリビングの空気を裏返して暢気な日常の声が響いた。
「あっ、あらあらどぉもぉ〜☆」
――ほーほほほほ、母さんはたちどころにしなを作って玄関先に飛んで行った。
「……、」
父さんはやれやれというようにソファに足を組み替えた。チャイナ妹はフローリングにぺたりと腰を着け、セーラー服のポケットからチキンの骨を出してバリバリやり始めた。隣でワンコがくんくん鳴いている。キンキン奥の方から鳴っていた僕の頭痛もいくらか和らいだ。
母さんが制帽に黒髪ロンゲのクリーニング屋のにーちゃんを引き摺ってリビングに戻ってきた。フフンと父さんに挑発的な目を向ける、
「……ちょうど良かった、見てなさいよ、アタシだってソノ気になりゃ、ちょいと人妻のミリキで言い寄るメンズのひとりやふたり……、」
母さんはにーちゃんの首をぐいと羽交い絞めにした。意地、というかもはやヤケになっている様子だ、にーちゃんにくっついて入ってきたナゾのオバケ生物とウチのわんこが低く唸り声を上げて睨み合いを始めた。その横で鶏骨を握ったチャイナ妹は、食うだけ食ったら眠くなったのか、こっくりこっくり、舟を漕ぎ始めた。……ウソだろ、なんて緊迫感のない子だ、ものすごく好意的に解釈して尋常でなく肝が据わっている、とでも言おうか。
「……」
新聞から顔を上げた父さんが眉を寄せた。
「?」
事情が飲み込めていないらしいにーちゃんに、母さんが何やら素早く耳打ちをした。父さんが溜め息をついた。
「……誰だ君は」
「喪男ですっ!」
一見優男のにーちゃんが無駄に爽やかさを振り撒いて言った。――ばきぃ!! 母さんが容赦なくにーちゃんの横っ面を張り飛ばした。
「ちっ、違うんだっ、ちゃんと”間男”って言おうとしたんだっだけど同じ”マ行”だもんでちょっと噛んじゃっただけなんだっ」
腫れ上がった頬を押さえてにーちゃんがアワアワ弁解した、殴り飛ばした手首を振って母さんがキッと睨みつける、
「ホンットにおめーはいつ何時も使えねーヤローだなっ!」
「……、」
グラサンを押さえて父さんがニヒルな笑みを浮かべた。「……これはこれは、お盛んな事で」
「――、」
はっとしたように母さんが振り向いた。グラサン越しにも父さんの視線が鋭く尖ったのがわかった。
「いいだろう、お前がそういう態度に出るならこちらにも考えがある、――いいか、状況は断然私に有利だ、お前に子供たちは絶対に渡さんぞ!」
声を荒げた父さんのグラサンが、ギラリ妖しいほどに底光りを放った。
(――うっ!)
僕はその場に頭を抱えた。一度は収まっていた頭痛がまた一段と激しくなった、軋む脳組織を這い出すように、おぼろげな記憶が甦る……、――……この人は……、そうだこの人は僕の”父さん”じゃないっ!
「……とっ、……とうさ――、――マ夕゛オさんっ!」
引き攣るこめかみを押さえながら僕は叫んだ。父さ……、マ夕゛オさんがギョッとしたように僕を見た。
「なぜその名前を……!」
手元から滑り落ちた新聞のローカル欄、地元の寺子屋に通う子供たちの元気な笑顔が大きく掲載されている。
「……マ夕゛オってダレある?」
チャイナ妹(仮)が瞼を擦って母さん(偽)に訊ねた。黒いハイカラーのチャイナマダーム★風衣装に腕を組んだまま、母さんは黙って首を振った。あの二人にもそれぞれ別の名前があったはずだ、――それからあの使えないクリーニング屋のにーちゃんにも、……けれどまだ今の僕には思い出せない、ついにわんことオバケの取っ組み合いが始まった、
――ぎゃん! ぎゃぎゃぎゃんぎゃん!!!
「♪マ夕゛〜オ、マ夕゛ァァァァァオ、」
チャイナ妹がその傍で気分良さそうに目を閉じて調子っぱずれの歌を歌い始めた。妙に頭に残るメロディラインだ、♪〜マ夕゛オがいればダイジョウブ、って何のことだよ、僕にはさっぱりわからないッ……!
「――私は……、私はただ家族が欲しかっただけなんだよォォォ……!」
父さ……マ夕゛オさんはグラサンの顔を両手に覆ってソファに項垂れている、
「……あーっ、そーいやナンかだんだん思い出してきたっ!!」
母さんがそんな父さんに詰め寄った、――ドムッ! わんこの巨体が母さんごとリビングセットを凪ぎ倒した。のっしのっしと歩いてきたオバケ生物が、わんこの上に馬乗りになって……違う、あれは母さんだ、母さんとオバケの掴み合いだ、頭を振って起き上がったわんこは、かしかしかしと後ろ足でやたらと耳を掻き、それからひとつ欠伸をして、……行ったァーーーっっ! そのまま寝ちまうつもりかと思いきや、再びバトル参加だ、三つ巴だっ、三者ダンゴになってだいぶ前に床にこぼしたお茶にまみれて戦っておりますっ、巻き沿いを食ってひっくり返ったソファの背凭れからしくしく泣いてる父さ……マ夕゛オさんの足が垂直に伸びている、BGMにチャイナ妹のスローリーなマ夕゛オソングが重なった、
「……、」
――ああもう、どこからどうツッコめばいいのかわからないよッ、頭を抱える僕の隣で手持ち無沙汰のロンゲのにーちゃんがにっこり笑みを浮かべて言った、
「どうだろう、ここらでひとつ配役チェンジしてみないか?」
「――はぁっ?」
この状況でいきなり何を言い出すんだろうこの人は、僕はずり落ちそうな眼鏡を押さえて彼を見た。


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