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ハンサムキラー

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 暗いアスファルトにいきなり白い足が浮き出ているのが見え一瞬たじろいだ。一瞬幽霊かと思ったそれは、なんてことはない、ただの人で、しかもかなりかわいい女の子だった。
 投げかけた僕の視線に気がついたのか、軽く会釈をしてその小さな口が開く。
「水谷くんってもう練習終わったのかなぁ?」
 授業が終わってから数時間、日が暮れてからもう大分、この女の子はずっと水谷を待っていたのだろうか。野球部の練習はさっき終わった旨を伝え、部室に行くと水谷は数人と歓談していた。
「水谷、外で女の子待ってるよ」
「え?あいつ待ってんの?」
 部員たちから何組の何々さん?という声が上がる。それは学年で一番と噂されている美人の名前で、2週間くらい前にその子に告白され、お付き合いすることになったのを自慢げに語ったため、皆の周知の事実となっていた。
「いんや、新しいの」
 次々にブーイングが起こった。水谷はそれをかわす様にへらりと笑った後、だるそうに身支度を始めた。
「お前さ、もう結構な時間だぜ?彼女一人待たせて危なくないか?」
「あいつが勝手に待ってんだよ。俺は一度もそんなこと言ってないし」
 花井の常識的な配慮をものともせずに水谷はさらりと言ってのける。花井はため息をついた後、どっちにしろ何か起きてからじゃ危ないから一応言っておいてな、とあきらめがちに忠告した。
 へいへい。水谷がいかにも面倒くさそうにカバンを肩に掛け、のらりくらりと部室を出て行ったあと、部員たちは水谷の女癖について話し始めた。
 そう、水谷は異様にモテるのだった。
 学年や学校というハードルをひょいひょい越え女子たちは水谷を好きになる。特筆すべきはそのサイクルで、長くてひと月、短くて3日もするともう新しい彼女ができているという具合。さすがに水谷の節操の無さに閉口する者も多かったが、自分たちとは縁のないモテっぷりは嫌でも羨望の対象になってしまうのだった。
 僕は一度同じ中学校の女子に頼まれ水谷との橋渡しをしたから、なんとなく女の子たちがあいつに夢中になってしまう要因に少し気がついていた。
 水谷は儚い。先も後も見ない。くるりと身を翻したらもう違う表情をしている。命綱なんて必要としない危うさで、でも飄々と笑いながら世界を渡る。そこが年頃の女にとってたまらなくかっこよく見えるんだろう。
 ちなみにその女子とは最短より2日多い5日の間柄だった。僕はなぜか責任を感じ、頼まれもしないのに謝った。怒ってないかと質問したら、妙にすがすがしい顔で全然、と答えられた。たぶんその辺も魅力のうちのひとつなんだろう。
 しかしたった5日のうちにその子とあらかたのことを終えていたことを、当然のように7番クソレフトから言われたときには、こいつ長生きするタイプじゃないなぁと苦々しく思ったものだ。
「ていうか俺、あいつの彼女何人目か分かんないんだけど。」
 指を数えるしぐさを途中でやめて花井がそう言った。ほかの部員たちも正確に覚えていなかった。
「多分7人くらいだと思ったけど」
 4月からの水谷との付き合いで僕が正確に把握しているのはその人数。
「じゃああれは8人目かー……」
 部室の中になんだかぎこちない空気が漂った。仕方がない。僕も、人生のうちでその何分の1の女と付き合えるだろう。高校生ながらそういうのは数ではないということはわかっていても羨ましいことに変わりはない。
 僕たちのため息をよそに水谷の彼女はそれから4回変わった。
作品名:ハンサムキラー 作家名:さはら