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『その日』

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プロイセンは、自分の誕生日を「忘れた」と公言している。


 それはおそらく、弟である自分に合わせてのことなのだろうと、ドイツは、なんとなく理解している。複雑な成り立ちの『ドイツ』という国は、祝うべき誕生日がはっきりしていないのだ。

 だが子どもの頃ならいざしらず、いまさらそれを寂しく思う年でもない。記念日などなくとも、ことあるごとに十分の愛情を注がれて育った自覚もある。ドイツは兄の不器用な気遣いが、面映い反面、申し訳なくも思う。

 だからドイツは、おそらく兄の誕生日であろうとあたりをつけた『その日』には、クーヘンを焼き、いつもより少しだけ豪華な食事をつくることにしている。


 同じように、『その日』になると、必ず顔をみせる昔馴染みがいる。


 仕事で家に訪れるときはいつもきちんとアポイントメントをとってくる彼女は、なぜか『その日』だけは、「たまたま通りかかったの」と言う。
 兄も、なんだかんだとその訪れを待っているようで、『その日』になると朝からそわそわしている。
 彼女はお茶を飲んですぐ帰ることもあるし、時折は一緒に食卓を囲むこともある。
 いつも彼女を前にする度、なにが気に食わないのか子供じみた喧嘩を吹っかけるプロイセンだが、『その日』に限ってはとても機嫌がいいのだった。



 今年、『その日』は休日だった。

 プロイセンも、ドイツと同じく、休日だろうがきっちり朝5時45分には目をさます。
 最近買ったばかりの、気張り過ぎない程度に気張り、普段着には見せかけた勝負服を着て、プロイセンは7時にはリビングに待機していた。今年は特に気合が入っているようだった。
 普段から、ことあるごとに鏡を眺めてはドヤ顔をきめる悪癖がある彼だが、今日は特に頻度が高い。
 見慣れているはずのドイツでも、うっかり「もういいだろう」と突っ込んでしまいたくなるくらい、高い。


 普段どおりの穏やかさのうちに、ちょっとした緊張をはらんだまま午前の時間はなにごともなく過ぎてゆき、時計の針が12時を指した。
 居間でくつろいでいたドイツが昼食の準備にとりかかろうと立ち上がった時、玄関のチャイムがなる。
 「出てくれ」と声をかける間もなく、プロイセンが立ち上がり、大股で玄関へ向かう。

 現れたのは、予想とは別の人物だった。
「おおおイタリアちゃん!??俺に会いに来てくれたのか!??感激すぎるぜ!!!」
「イタリア?どうしたんだ急に」
「はいこれお土産~」
 いつものようにMAX振り切れたテンションで歓迎の意を表現するプロイセンを軽々とスルーし、ドイツにラッピングしたワインを差し出すと、イタリアはリビングを見回す。
「あれ、ハンガリーさんは」
 とたんにプロイセンがぎょっとしたように目を泳がせた。
「は?な、え。…い、いやー、別に、今日は、来るとか連絡はねえけど?」
「あ、そうなんだ。ねえドイツー俺お腹減った」
 ドイツは呆れたため息をひとつつき、台所にむかって顎をしゃくった。
「今準備をするところだ。ちょうどいいから手伝ってくれ」

 なんにせよ、今日という日に、食卓を囲む相手がひとりでも増えることは喜ばしい。



作品名:『その日』 作家名:しおぷ