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君のゴミの日

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抱き締めると、前よりも骨ばっているのがわかる。
キスをすると、苦しげに呻くのがわかる。
愛してると言うと、困ったように笑うのがわかる。

嗚呼、俺はいつかきっと、君を殺してしまう。



ガリッと爪を噛んだつもりだったのに、親指の先に軽い痛みを感じて、見ると指先から血が出ていた。
噛み過ぎてガジガジになった爪は、指を保護する役割はもう持たない、哀れだ。

まるで俺みたいで。

帝人くんに出会って俺はどんどんボロボロになった。
愛だの恋だのくだらないと思いつつ焦がれていたはずのその感情は、物語のように生易しいものじゃない、
そう思い知ったのは、帝人くんを愛してしまったから。
狂おしいほどの愛情や、押さえきれない嫉妬、抱えきれない切なさは、俺の心を切り裂いた。
そりゃぁもう、ボロボロに。

俺がそんなに思っているのに、俺を一番愛していると言いながら、他人にも優しい帝人くんには憎しみさえ感じる。
どうして、どうして、

どうして俺だけを見てくれないのか、

不満で不安で集中力が途切れていたせいで、手の中で弄んでいたナイフが俺の掌を一文字にパックリと切った時は良かった。
別に命にかかわるような大怪我でもないくせに帝人くんが泣きそうな顔で俺の手を手当てしてくれた。
「刃物で遊んじゃダメです。」
なんて、俺のことを心配して叱ってくれた。

大事にされてる、愛されてる、そう感じた瞬間だった。

だから、一度だけ。
たった一度だけ俺は過ちを犯した。

俺が同じように心配して欲しくて、手首を切った時、帝人くんは青ざめた顔で言葉を失っていた。
そして一言だけ、呟いた。
「・・・僕たちは一緒に居ない方が良いのかもしれません。」

ああ、そうか。
俺はこの時思い知った。
俺のこの感情は、『普通』の帝人くんには重すぎるんだ。

確かに「客観的」に見れば帝人くんは何よりも俺を優先してくれた。
俺が会いたいと言えば、真夜中でも、学校を早退してでも俺のところへ来てくれた。
俺が欲しいと言えば、拒否すること無くありのままの全てを俺にくれた。

帝人くん自身が、どんなに疲れようと、周りとの立場が悪くなろうと、俺を優先して、愛そうとしてくれた。

だけど、
足りない。
全然足りないんだ。

俺の心が飢えて、帝人くんを欲する。
欲しい欲しいと吠えている。

最近の帝人くんは見るからにやつれた。
顔色はいつも悪くて、隈があって、それでも相変わらず儚げで美しい。
そして、俺に優しい。

でも、あの細い体がさらに細くなっていくのは嫌なんだ。
ましてやそれが俺のせいなら尚更。

解放、してあげなきゃ。

そう思うだけで、恐ろしい恐怖が俺を襲って、また不安で爪を噛む。

ああ、指先から流れる血が俺の心情を現すようにほろ苦い。



「何か、良いことでもあったんですか?」
帝人くんは俺の前にお茶を置きながらそう言う。
少し伏せられた瞳は長い睫毛が影をつくる。
その影がしっかりとわかるほど、青白い顔。
口元は微笑みを浮かべてるけど、疲れてるのは隠しきれてない。

「え?」
俺が帝人くんを見かえすと、帝人くんは笑みを濃くした。
「鼻歌なんて歌ってるから。」
そう指摘されて初めて自分が鼻歌を歌ってることに気が付いた。
逆だ。
怖くて不安でたまらないのを隠そうとして無意識に機嫌が良いふりをしていた。

「ちょっとね。」
俺が笑うと、帝人くんは苦笑した。
「なら、爪の噛み過ぎなんてしないで下さいよ。」
俺の右手の親指は、帝人くんがガーゼをあてて血を止めてくれてある。
微妙に血が滲んでいるけど、痛くは無い。

優しく包むそれは、まるで帝人くんのようだ。

「・・・ねぇ、帝人くん。」
「なんですか?」
「燃えるゴミの日って何曜日だっけ?」
「燃えるゴミの日、は…ああ、明日ですよ。」
「そうだねぇ。ちょうどいいか。」
俺が呟くと、帝人くんは俺の言葉が良く聞こえなかったようで、不思議そうに首を傾げた。

作品名:君のゴミの日 作家名:阿古屋珠