猫と犬
ある日、アパートの玄関に段ボールが置かれていた。
中を覗くとそれは一匹の猫と置き手紙。
送り主の名を見た時は思わず握り潰して地の果てまでも駆け出しそうになったが、その場に居た弟の動物に罪はないという一言でひとまず落ち着いた。
その日から猫との奇妙な共同生活が始まった。
猫は既に成猫だった。
手足が長くほっそりとした優美な体つき、細く、絹糸のような滑らかな毛質の黒い猫。後でロシアンブルーだという種類だと幽が教えてくれた。
「でも、ここまで黒い毛並みをしてるのは初めて見る」
猫の耳裏を撫でながら、珍しく幽は笑った。
静雄は猫に触れられないで居た。
今まで生き物を飼ったことはない。幽みたいに優しく撫でてあげることも出来そうにない。
ただ、静雄は静雄なりに猫を大切にしようと思った。
留守にすることも多いので、出かける時は大量の水と餌を用意した。猫は懐かなかった。
猫は静雄が居る時は一定の距離を保ち続けている。いつも窓辺に佇んで外を眺め、静雄を見ようともしなかった。
外に出たいのか。俺とこの部屋だけでなく、もっと広い世界へ。
ある日、窓を開け放して出かけた。
池袋中を走り回って、部屋に戻ったらいつもの窓辺に猫の姿はなかった。
ああ、出て行ったのかと身体の力が抜けてベッドに座り込む。
「優しくしてやりてぇと思ったんだけどな…」
静雄は呟いた。フワリと足元を何かが撫でるような感覚がした。
暗闇に黒い猫の姿が浮かび上がる。猫は静雄を見上げてニャア、と小さく鳴いて静雄の足に躯をすり寄せた。
静雄はその時初めて猫に触れた。
中を覗くとそれは一匹の猫と置き手紙。
送り主の名を見た時は思わず握り潰して地の果てまでも駆け出しそうになったが、その場に居た弟の動物に罪はないという一言でひとまず落ち着いた。
その日から猫との奇妙な共同生活が始まった。
猫は既に成猫だった。
手足が長くほっそりとした優美な体つき、細く、絹糸のような滑らかな毛質の黒い猫。後でロシアンブルーだという種類だと幽が教えてくれた。
「でも、ここまで黒い毛並みをしてるのは初めて見る」
猫の耳裏を撫でながら、珍しく幽は笑った。
静雄は猫に触れられないで居た。
今まで生き物を飼ったことはない。幽みたいに優しく撫でてあげることも出来そうにない。
ただ、静雄は静雄なりに猫を大切にしようと思った。
留守にすることも多いので、出かける時は大量の水と餌を用意した。猫は懐かなかった。
猫は静雄が居る時は一定の距離を保ち続けている。いつも窓辺に佇んで外を眺め、静雄を見ようともしなかった。
外に出たいのか。俺とこの部屋だけでなく、もっと広い世界へ。
ある日、窓を開け放して出かけた。
池袋中を走り回って、部屋に戻ったらいつもの窓辺に猫の姿はなかった。
ああ、出て行ったのかと身体の力が抜けてベッドに座り込む。
「優しくしてやりてぇと思ったんだけどな…」
静雄は呟いた。フワリと足元を何かが撫でるような感覚がした。
暗闇に黒い猫の姿が浮かび上がる。猫は静雄を見上げてニャア、と小さく鳴いて静雄の足に躯をすり寄せた。
静雄はその時初めて猫に触れた。