猫と犬
池袋の片隅にある小さな公園で犬を見かけた。
無駄のない引き締まった体躯。短いが触り心地の良さそうな黄金色の毛並に黒の首輪だけが浮いていた。触れてみようとしたら唸り声を上げると同時に噛まれた。
掌にうっすらと噛み跡が残った。
それから臨也は池袋に来る度に公園へ足を運んで犬を観察した。
臨也は特に動物が好きというわけでもなければ嫌いというわけでもない。もちろん、飼ったこともない。そもそも一つの物に執着するのを得意としなかった。
臨也は何度か犬に気まぐれに餌をあげた。
それは寿司だったり飲みかけの炭酸だったりと、とても犬の食べられたものではなかった。犬はその度に訝しみ唸り声を上げた。鼻で押し返したり土に埋めたりしていたが、唯一、溶けかけのシェイクだけは冷たさに驚きながらもペロリと舐めた。
その場を偶然にも顔馴染みの顧客に見られ、あなたも動物と遊んだりするんですねぇ。とからかうように笑われた。
「ラブラドールは大人しそうに見えて、とても活発です。甘く見ない方がいいですよ」
もう少し早くにそれを聞きたかったと言う臨也を横目に、四木は意外にも慣れた手つきで犬を撫でていった。
時折、公園には学校帰りの学生が立ち寄る姿があった。
学生たちはそれぞれ犬の背を撫で、餌をやり、公園内を走りまわっていた。犬は、臨也と居る時のように唸るのではなく、快活に駆けまわり吠えていた。臨也はその光景を反対側の歩道から眺めていた。
しばらく池袋に行けない日々が続いていた。
久々に足を向けると早々に面倒な相手に見つかった挙句、走りに走り日も落ちた頃、公園に立ち寄った。相変わらず犬はそこに居て、臨也は少し離れたベンチへ腰を下ろす。今日は犬と臨也二人だけだった。
冬の外気に寒さに少し身震いがして、身体を丸める。
何かが臨也の二の腕にツンと当たって顔を上げると、犬が鼻先で突付いていたのだと分かった。犬は臨也の足元に寝そべりまたそっぽを向く。
犬から臨也の傍へ来たのは始めてのことだったので少し驚いた。
「…そういう優しさは反則だよ」
臨也は触れた温かさを確かめるように袖を握りしめた。