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楽欲 -ぎょうよくー

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**************楽欲―ぎょうよく―***************



きんいろ・・・
きんいろの血がほしい・・・
いつも,ふわふわキラキラと,主人の前を横切る,きんいろ。
いつも,主人に澄み渡る殺気を放つ,きんいろ。
ああ・・・
あいつの血は,どんなに甘いことだろう・・・
どんなに美味しいだろう・・・
ああ・・・
あの血をすすりたい・・・

キンイロノ チガ ホシイ ――――――――――――

*********************************************

今日も今日とて,メリー号の甲板では,ゾロとサンジの怒号が響き渡っていた。
「あぁ!?いまなんつった,このクソコック!」
「へぇへぇ,マリモさんには耳がついてねぇんだな,こりゃ失礼したぜ!」
「んだとゴルァ!!そこへなおれ!!」
同時に起こる激しすぎる衝撃音。
「あ〜あ〜,勘弁してくれよぉ。船をもうこれ以上傷つけないでやってくれ・・・。」
げんなりしてつぶやくウソップ。
しかし,その様子は,どこかあきらめが入っていた。
「なぁ,ナミ〜。あいつら止めてこいよ〜。」
「やぁよ,冗談じゃない。いつものことじゃない。そのうち収まるわよ。・・・ウソップがお金くれるんなら,止めてきてもいいけど。」
ナミはどこ吹く風だ。
「・・お前にこれ以上借金増やしたくねぇよ。はぁ・・仕方ねぇ・・木材の準備でもすっか・・・」
ウソップはがっくりと肩を落として,倉庫へと向かった。

そうこうしているうちに,ゾロとサンジのケンカはエスカレートしていく。
サンジの蹴りは本気のものとなり,ゾロも刀を抜刀していた。
サンジが本気で放った蹴りを,ゾロの二本の刀が受け止める。
そのまま,ギリギリ・・とお互いの力が拮抗し,膠着(こうちゃく)状態となった。
至近距離で視線をぶつけ,にらみ合う。
サンジは,ふっとゾロの腰に目をやり,ゾロが二本しか刀を抜いていないことに気が付いた。
「てめぇ・・なんで三本,刀抜かねぇんだ?三刀流の剣士さんよぉ。」
「ふん。うるせぇ。お前なんて,二本で十分だ。」
「随分言ってくれるじゃねぇか。・・・本気出せよ。それとも,俺が怖ぇのか?」
「・・・。こいつはダメだ。お前を斬りたがってる。」
ゾロは,視線をわずかにそらして,苦虫を噛みつぶすようにつぶやいた。
「はぁ!?・・・ハッ!そんなナマクラ刀じゃ俺は斬れねぇよ!やっぱ,ビビってんだろ,お前」
「んだとぉ!?お前,そんなに斬られてぇのかよ!」
「違うっつってんだろ!?俺は斬られねぇって言ってんだよ!!」
「・・・ほぉ。大した自信じゃねぇか。」
その時,ゾロの腰に収められたままの鬼徹が震えだし,鯉口がカチリと音を立て,刃が鞘から少しだけ出てきた。
それを見咎めたサンジが,ますますゾロを煽る。
「ふん,その刀の方がよっぽど度胸あんじゃねぇか。刀は素直でかわいいねぇ。主人が腰抜けで,まったくかわいそーだ。」
「てめぇ・・・誰が腰抜けだって・・・?いいだろう,後悔すんじゃねぇぞ?」
「ハン,俺の蹴りでそんなナマクラ刀,たたき折ってやるよ!!」
その言葉が合図となり,お互いバッと離れて間合いを取る。
ゾロは,和道一文字を口にくわえ,スラッ・・と鬼徹を抜刀した。
その目は,どこか飢えた獣を連想させ,サンジの背筋にゾクっとしたものが走る。
「・・・・上等」
ゾロが本気になったことを確認して,サンジが渾身の力をもって,右足で蹴りこむ。
その蹴りを,左手の鬼徹で,ゾロが右に受け流す。
サンジとゾロの体が交錯した瞬間・・・ゾロの目の前が,真っ赤な鮮血で染まった。
「!!!」
慌てて振り向くと,サンジが右足を抑えて,甲板にうずくまっている。
「〜〜〜〜っ!」
声にならず,足を抱えたまま,小刻みに震えているサンジ。
「サンジ君!!」
「サンジっっ!!」
一気に,甲板の空気は騒然としたものとなった。
「ちょっとゾロっ!どういう事なの!?やりすぎにもほどがあるわよっ!!」
「サンジっ!!サンジっ!!しっかりしろよ!こんなに血がっ・・!医者ぁ〜〜!!」
「・・・おい,チョッパー!お前が医者だろ,しっかりしろよ!」
ナミやチョッパー,ウソップが騒いでいる声も,ゾロには何も聞こえていなかった。
喧噪を,ただ呆然と眺めている。

・・・俺は斬っちゃいない。
峰で受け流しただけだ。
・・・なのに・・・
「・・・クソッ!」
忌々しそうに背を向け,ゾロはその場を去ろうとした。
それを見たナミが叫ぶ。
「ゾロ!!あんたどういう事よ!?もし・・・もしサンジ君が・・・大変な事になったらっ!!・・・ルフィ!!何か言ってやってよ・・・!!」
それまで,静観していたルフィが,ゾロに向き合った。
「・・・・・」
無言でゾロを見つめるルフィ。
「・・・ルフィ」
先に口を開いたのは,ゾロだった。
「・・・俺は少し一人になる。話は,それからでいいか?」
「・・・ああ。」
ゾロは,それだけ言うと,ルフィに背を向け,歩き出した。
その背中をじっと見つめるルフィ。
「ちょっとルフィ・・・!!何で,何でなにも言わないのよ!?あいつ,サンジ君を斬ったのよ!?」
がくがくとルフィの肩を揺らしながら,ナミは詰め寄った。
「ん〜〜・・ゾロは多分,サンジを斬ったんじゃねぇよ。」
「え!?」
「ゾロ,泣きそうだったし。」
「え,えええ!?」
いつもの不機嫌なしかめっつらだったし,全然,そんな風には見えなかったのだが・・・
ナミの頭に,いくつも「?」が浮かぶ。
「ま,いいじゃねぇか。後で話するって言うんだし。ケンカにケガはつきものだろ?チョッパーもいるし,大丈夫だっ!!」
にしししっと,いつもの船長スマイルを見せるルフィ。
「ちょっ・・!?もう,信じらんない・・・・!!」
ナミは,力が抜けて,その場にへたりこんだ。