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好奇心は魂を残した

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 お祭り好きなのはどこの国でも変わらないと思う。特に、宗教色が薄いこの国ならなおさらのこと。宗教を問わず様々な行事を取りこんで楽しんでしまう。形骸化、と言えばそれまでだと思うが、それで楽しめるならいいじゃないかと今どきの若者らしい思考で、正臣は笑った。
 池袋の街は既にハロウィン一色、クリスマスやバレンタインデーほど馴染みはないが最近になって浸透してきたイベントに企業や店だけではなく個人のレベルでも楽しんでいるようだ。今日もあちこちで仮装した集団が見えて笑った。
「でもまあ俺もそれは一緒か」
 池袋にある来良学園ではこの時期、学校を上げてハロウィンを楽しむ。丁度学園祭と被っていることもあるのだろう、クラスごと挙って衣装を制作する。ちなみに正臣は狼男だ。ふさふさとした尻尾と耳をつけながら歩いていれば、時折行きかう少女たちから視線を投げられる。それに応えながら時にナンパをし、と繰り返していれば何時の間にか夕暮れになっていた。
 そろそろかな、と仮装していても持っていた携帯を開けば時刻は夜にさしかかる。
 しかし掛けられた声に反応しないなど、正臣に限ってあり得ない。ひそひそと囁かれる声にそちらに向かって愛を告げれば、呆れ果てたと言わんばかりに別の声が掛かる。

「……そんなことばっかりしてると三ヶ島さんから見限られるよ」
「大丈夫だ沙樹は笑って許してくれている!」

 くるりと振り向いた背後には黒い衣装に身を包み、かぼちゃの行燈を持った少年が苦笑していた。
「久しぶり、正臣。元気そうでよかった」
「そういう帝人も元気そうじゃんか! おっ、今年も見事な力作だな!」
「……そうだね」
 手に持ったかぼちゃの行燈は、オレンジ色の温かい光を灯している。
 帝人と名乗る少年のことを正臣はあまり知らない。だがそんなものは友人になるのになんら関係はない。しっかりしているようでどこか抜けている、毎年ハロウィンの時に再会するこの友達に逢うのがいつの間にか楽しみになっていた。
 口に出しては言わないけどな、と笑いながら今日も今日とて帝人の衣装に目を引かれる。
 ハロウィンと言えば仮装するのは妖精、妖怪、幽霊などこの世のものではない想像上のものなせいか、どうしても黒系統の配色が多い。近年になって違ってきたが、それでも街中で見る色は黒が大半を占めていた。
 だと、してもだ。
「つーかお前……変わり映えしないよなぁ。また魔法使いか? 似合うけど」
「はは、正臣も似合ってるよ。狼男」
 もふもふでいいねと笑う帝人にそうだろう、と誇って見せる。こんな軽口でさえも楽しい。約一年ぶりに再会できた友人は以前と変わらなく見え、毎回違った衣装を身につける自分としては少し照れくさい。
 黒いマントに黒の衣服。右手にジャック・オ・ランタンを持った帝人は周囲が闇に包まれてきているせいか、持った行燈だけが奇妙に周囲から浮いて見えた。
「ま、いいか。似合ってるんだからな。それよりさ、そろそろ始まるから行こうぜ」
 ひょいと肩を竦めて先導する。肩越しに振り返ればついてきているようだった。安堵しながら池袋の雑踏をすり抜けていく。人の波間を縫うようにたどり着いた先は、見慣れた来良学園の校舎だった。
「おーおーやってる。今年はまた盛大だな!」
 視線の先で焚かれるのは大きな篝火。キャンプファイヤーにも似たものをグラウンドのど真ん中でやっている。今日ばかりは校庭を開放しているせいでグラウンドには明らかに学生じゃないといえる人たちも多い。もはや何が何だかわからなくなっているが、楽しめるならいいじゃないか、と思いながら正臣は帝人を振り返る。
「綺麗だろ。こういうのもいいよなー」
「……うん。本当だ」
 きれいだね、と返す帝人は微笑んで、それでも正臣の方にこようとはしない。必ず一歩離れた影のあたりにいる。熱が苦手なのだろうか、などと思いながらまぁいいかと帝人の傍へと歩く。
「今年は、いつもとは違うんだね」
「んー、なんかな、実行委員のやつらが例年通りのやつなんざ面白くないってんで色々企画したらしいんだわ。楽しいからいいけどな!」
「そうだね」
 そうだろうそうだろうと同意する正臣に笑う帝人を見ると、久しぶりなのにすぐ傍にいつもいたのではないか、そんな錯覚を抱かせる。本当だったらいいのにと思いながら、正臣は帝人の顔を見る。
 黒の上下に黒のマント。おまけに黒い帽子を被り、カボチャの行燈を持った姿はどこからどう見ても魔法使いだ。これで黒猫がいれば完璧だななんて思う。童顔なのか、同い年のはずなのに表情は自分よりも幼い気がする。一年に一度だけ、ハロウィンの頃に再開する友人。
「……正臣? どうしたの」
「なぁ、帝人。おまえこっちに来ないか?」
「え、何」
「来良に転校してこないかって言ってるんだよ」
 いきなりの言葉に、帝人の目が困惑に揺れる。
「そう、できたら楽しそうだと思うけど」
 簡単に頷けないとこぼす帝人に、正臣は自己嫌悪に駆られる。
 口で言うのは簡単だが、実際行動に移すのは難しい。それがこういったことならば余計に。来良は私立だ。転校するにも金がかかるし、手続きだって面倒だろう。自分だって知っているくせに何で言ったんだ。
 ただ、そう、ただ単に。学校生活でも、帝人がいれば楽しいだろうなんて思ったから。他愛もない会話を交わして、笑いあって、ふざけあって。ぶつかることなんてこの友人相手には少ないだろうがそれでも楽しくて、きっといい高校時代だったね、なんて言えること間違いなしだ。
 しかしそれは正臣の願望であり、帝人の意思を無視して進めることなどできない空想。現実にはできない夢物語。
「……いや、冗談だから。マジでやるなよ」
「ごめん、正臣」
「いやだから謝るなって! まあ、なんだ。素敵で無敵な紀田正臣さまの貴重な時間を帝人君と遊んで過ごしたいなーなんてそんなこと思っただけだから! 俺の時間をスペシャルでプリティなお嬢さんたち以外と費やすなんざ、貴重なんだぜ?」
「刺されればいいと思うよ、一度くらい」
「なんてツンデレ!?」
 そんな軽口を交わしながら時間は過ぎていく。夕暮れは既に深い闇へと姿を変え、闇夜の中を照らす灯火がぽつりぽつりを増えていく。池袋のネオンもまた灯っていたが、今日の夜は各々が手に持つ灯火の方が多いような気がしていた。
 最中、あ、と帝人が呟いた。帝人? 正臣が問いかけるが、困ったように彼は笑う。
「ごめん、正臣。時間だ」
「あ、もうそんな時間か?」
 今夜のイベントはほぼ夜を徹して続けられる。人も捌けてきたといってもまだまだ多い。だから時間になどあまり頓着していなかったが、取り出した携帯を見てみれば時刻は既に明日へとさしかかろうとしている。
 正臣に正臣の予定があるように、帝人にも彼の予定があるのだろう。困ったように断わりを入れる帝人に、相変わらず律儀だと苦笑しながら頷いた。
「じゃ、またな……つってもお前見かけるの、いっつもこの時だけど」
「うん、まあそれはしょうがないんだけど……じゃあ」

 またね。

 そう言って帝人はくるりと踵を返し、人波を縫うようにして去っていく。遠目に彼の持っていた行燈が灯火のように揺れている。
作品名:好奇心は魂を残した 作家名:ひな