すべてをゆらして
メトロノーム
なんてことをなんてことを。
水谷は昨日から何度と繰り返した言葉をまた頭の中でつぶやく。
俺はあの時どうしてあんなことを言ってしまったんだろう。
フラッシュバックする、栄口の赤く照らされた顔と驚いた表情。わなわなとこみ上げる後悔に居たたまれない。
「ぬわー!」
「うるせーよ」
何べんも言わせんじゃねぇよという阿部の不機嫌な声が背中に当たる。
(時間が戻せるなら……)
でも水谷にはわかっていた。自分が栄口に抱いている感情はフレンドリーとかライクとかそういうものではなく、もっとどろどろとした行き着く先のないもので、それについて考えるたび本当にどうしようもない気持ちを味わっていた。春夏秋冬季節がめぐればいつか忘れてしまうとはどうしても思えなかった。
「ううう……」
「うるせぇつってんだろ、水谷」
痺れを切らした阿部が放り投げたケシゴムは水谷の頭で一回バウンドすると机の下にあっけなく落ちた。
「あべー……ラブとライクってどう違うと思う?」
「はぁ?」
朝からずっと机に突っ伏して「あー」だの「うー」だの言葉にならないうめき声を上げていた水谷がいきなり振り向いてそんな質問をしたものだから、阿部は正直面食らった。
「……つづりが違うんじゃねぇの」
「阿部に聞いた俺がバカだった……」
うぜえよおめー早く俺のケシゴム拾えよなんて阿倍の罵声を背中に浴びたけれど、実際のところその言葉の一つも水谷の頭の中に入ってこなかった。