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ケンカップルとサンドウィッチ! ~後日談~

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根本から引っこ抜かれていたり、いっそ芸術性すら感じさせるほどに奇怪な捻り曲がり方をした道路標識。ボコボコに凹んでいたり、本来の形を思い出せないほどに大破した自動販売機やコンビニなどに設置されているゴミ箱。豪快にブチ破られた店々の窓ガラス。
 それらは、池袋において特別に珍しい光景というわけではない。
 かといって、大抵の場合は役所や企業から派遣された業者の方々により哀しいほど手慣れた様子で速やかに片づけられ、然るべき修復がなされるから、誰にでもいつでも見られるごくごく普遍的な光景というわけでは必ずしもない。
 ところが最近、その光景が誰にでも頻繁に見られるようになった。役所や企業側の慣れているはずの手続きや業者の行動が追いつかないほどにその破壊活動が起きているのだ。
 直すそばから壊されるそれを更に直すが壊され・・・・・・という役所や企業や業者、善良なる一般市民の血税、地球環境その他もろもろに全くもって優しくない無限ループ。
 その、原因。
 おおよそ人間業とは思えない破壊活動を楽々こなしてしまう、池袋ではちょっと名の知られた青年。池袋最強、喧嘩人形と謳われる平和島静雄。
 もっとも、基本的に平和主義者で暴力を嫌う静雄が、たった一人で器物破損という立派な犯罪を犯しているわけではない。
 原因の原因。
 スネに傷のある者やその筋の者の間では名の知られた青年。新宿の素敵に無敵な情報屋さん、折原臨也。
 臨也が新宿に行って以来、派手な大立ち回りというのはそうなかったのだが、その回数は最近になってグンと増えた。臨也が頻繁に池袋を訪れるようになったのだ。しかもその際、どういうわけか高確率で静雄と出会してしまう。
 原因の原因の原因。
 池袋ではもちろん、その筋の人にも名前を知られていない少年。ごくごく平凡な高校生、竜ヶ峰帝人。
 名前こそゴツいが、人畜無害そうな雰囲気と少々野暮ったい見た目。たとえ、「コイツが大本の原因です」と言ったところで、まずもって理解されないだろう。
 しかし、最近の池袋の美観を著しく損なう事態の原因は確かに、現在、座り心地のあまりよろしくないバーガーショップのイスに腰掛け、ポテトをハムスターよろしく口に詰めてはモグモグしている帝人なのだ。
 原因の原因の原因の原因。
 静雄と臨也、2人が患う草津の湯でも治せない病。それは言葉にするにはあまりにも易く、しかしその実は複雑怪奇なミステリー。正臣が常々女性に捧げているものと同じ感情。
 ――――つまり、恋情だ。愛情だ。
 タチの悪い嘘であったら、どれだけ良かっただろう。至って本人たちは大真面目だ。よく、恋は戦争というが、この2人の場合は喩えになっていない。「恋」という正臣に言わせてみればトキメキパッション☆ハッピースプリングフェア開催中(意味を深く考えてはいけない)にあるまじき荒れっぷりである。
 もっとも、その感情を向けられている当の帝人にはイマイチ自覚がない(あるいは、自覚したくない)ようだが。
「んで? お前は静雄と偶然会って、その場で和やか~にお話してた、と」
 そう言って、氷たっぷりで味がほんのり薄まったコーラをストローで啜り、弾ける炭酸の爽快なシュワシュワパチパチを舌や喉に感じながら、正臣は帝人を伺い見た。
 帝人は、「うん」と頷き、口の中のポテトを飲み込めたのか口を開く。
「静雄さんって、結構甘いもの好きらしくて、おいしいケーキ屋さんとかコンビニのデザートとか色々教えてくれたよ。そういうの中々買えないんですって言ったら、今度オススメのを持ってきてくれるって」
「・・・・・・へー、あの平和島静雄が、ね」
「良い人だよね、静雄さん」
「帝人? お前、食べ物に釣られてないか?」
 美味いものくれるからってホイホイついて行くなよ、とまるで親のようなことを言いながら、正臣が溜息をついた。心境としては赤ずきんちゃんのお母さんである。
 しかし正臣の心配をよそに、帝人は唇と尖らせた。
「そんなことないよ。それに、ホイホイついていくわけないでしょ、小さい子じゃあるまいし」
「ふーん?」
 そうは言うが、一人暮らしでエンゲル係数は常に抑えておきたい帝人に食べ物攻めは有効な手だ。意図してのことか否かイマイチ判断つけにくいが、平和島静雄め中々やるな、と正臣は唸った。
「まあ、そこまでは良かったんだけどね。でも、そこにどういうわけか臨也さんが現れて・・・・・・」
「・・・・・・あとは、いつも通りってか」
「そう」
 頷いた帝人が、再びポテトを摘んで口に入れるのを眺めながら、正臣は眉を寄せて口にくわえたストローの先をガジリと噛んだ。
 よろしくない。全くもって本当に大変よろしくない事態である。
 正臣としては帝人に、田舎に引っ込んでいるよりは刺激的だが、それでも基本は安心安全の池袋ライフを送ってほしいのだ。今の状態は刺激の度合いがあまりに強すぎる。山椒程度の刺激ならまだ安心して見ていられるが、ハバネロ級の刺激なんて論外だ。
「大体、帝人が余計なこと言うから、こうなったんだぞー」
 言っても詮無いことと分かりつつ、思わず正臣はぼやいてしまった。
 すると、帝人が「僕のせいだけじゃないよ」と反論した。
「元は狩沢さんでしょう? 僕はとばっちり受けただけだよ。それに、もしあそこで言ってなかったら、今僕はここにいない気がするしね・・・・・・」
 帝人がフッと遠い目をした。
 事の発端は一週間程度前。
 帝人の口から、「お2人はボーイズにラブったケンカップルなんですね」発言を受けて以来、静雄と臨也は頻繁に帝人の前に現れるようになった。最初は、自分の天敵との恋人疑惑に対する誤解を解こうと鬼気迫る勢いだったらしい。
 しかし、帝人が2人に対して恋人疑惑をかけていたわけではないことがそれぞれ判明し、事態はめでたく収束した――かと思えば、そうは恋の問屋が卸さなかった。誤解が解けて以降も2人は毎日のように帝人の前に現れるようになった。
 最悪だ。正臣は親友の不運を嘆いた。
 もしこれが、そこら辺のチンピラ風情に目をつけられた程度の話ならどれだけ良かったか。そうなら正臣は、昔取ったナントヤラでもって追い払うことも吝かではない。が、いかんせん、相手が悪すぎる。なんたって、あの平和島静雄と折原臨也である。正臣に勝ち目など万に一つもあるはずがない。たとえ相打ち覚悟で挑んでも、即行で返り討ちだろう。しかも、返り討ちの理由が親友を守るための名誉の死くらいならまだ成仏だってできるだろうが、下手をすれば、他人の恋路を邪魔したら馬に蹴られて死んじゃった☆になるかもしれない。
「浮かばれねぇっつーの」
 考えただけでも破壊力が半端ではなくて、思わず言葉を漏らしてしまった。
「え? なにが浮かばれないの?」
「いーや、なんでもない」
 適当に誤魔化しながら、残りのコーラを一気に啜った。