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その手から離れたボールが、綺麗な、予想通りの放物線を描いて吸い込まれるようにゴールを僅かに揺らす。
それは何度も何度も繰り返されて、まるで同じ映像の繰り返しのようだ。
それでもそれが映像でないことは、真ちゃんの濡れていくTシャツつまり背中の汗や呼吸の乱れで知ることが出来る。
真ちゃんは周りの雑音に左右されることなくそれを繰り返す。
一種それを見るものにとっては。繰り返しそれを視界に捉えるものにとっては断片的な一枚の絵数枚のようにだって感じられる、なんてことを口にしたらきっと真ちゃんはバカにするのだろうとは思うけど。
言葉の要らない意識のない、けれどそれは見るものにとってはコミュニケーションなのかもしれない。
その真摯な姿勢に息が止まる。
魅入られる。見ろと言われたわけじゃないのに見なければいけない気持ちになると言うか目が離せない一瞬がある。
足のバネ、腕のしなり、手首のスナップ、指先の動き。
真ちゃんにとっては与えているつもりはなくとも、見るものに言葉にならない何かを感じさせることが出来る。
真ちゃんの姿にはそういうものがあった。
特に十月の後半に入ると鬼気迫るものもあって。
不意にその背中を振り向かせたくなる一瞬もあるなんてことは、まあイタズラ心の一部なんだと言い訳したい。

作品名:押して引く2 作家名:しの