押して引く2
体育館の中にはいつの間にかオレと真ちゃんしかいなかった。
外からの喧噪、例えばどこかの部活のランニングの声出しすらも聞こえない。
隅に転がったボールが目に入る。
ここは、コートの中、だ。
自分の芯に何かが灯ったのがわかった。まずい。
「し、真ちゃん」
強引にその距離から離れようと身を反らす。
さっきとは別の意味で息が詰まった。汗くさい自分。もちろん真ちゃんだって同じだから気になんてしないだろう。
要はそういうことを気にし始めた自分が嫌だった。
真ちゃんの中には明確にあるかわからないものが、自分の中には形になっている。
真ちゃんからは明確にされていないものがオレの中でどんどん大きくなってきている。
つい、と今度は腰の辺りから首の後ろまでを撫でられた。
「っ・・・」
ただそれだけだ。ちょっとしたイタズラの応酬。それをオレが勝手に勘違いして。
目の前の体にすがりついた。
「高尾?」
少しだけ不思議そうな真ちゃんの声に唇を噛む。
自分だけがこんな些細なことに動揺している。
「真ちゃん、ごめん」
何に対して謝っているのかは自分でもわからなかった。
なんだか酷く後ろめたくて。
悲しいくらいの気持ちになっていたのに。
「感じたか?」
なんて小さな声が降ってきたので顔を上げる。
そこには、してやったりな風なのに、どこか照れの混じったような真ちゃんの顔があった。
息を吸ったら、ひゅ、なんて音が出てびっくりする。
今ここで吐き出す言葉として何が正しいのか、思い浮かばない。
芯にだけ灯っていた熱が全身に広がっていく。
動けない。キスを仕掛けることもできない。
言葉がでなくて唇が渇いて。
息だけが漏れる。
それを見たのだろう真ちゃんの唇が僅かに開いてけれど不意にぎゅ、と抱きしめられた。
苦しいくらいに抱きしめられて、ぱ、と離される。
そのまま座り込んだオレに真ちゃんからの言葉はない。
オレも言葉なんて出なかった。ぶるりと体が震えた。
緊張感から解放されたせいなのか体が弛緩する。
なのに、息が苦しい。
そのままオレに背を向けてボールを片付けにいく真ちゃんの背中を見ながらオレは。
どうして強引にでもキスしなかったんだと、強く強く後悔して頭を抱えた。
end