愛妻の日
遠くで「ブラックー!ずっと俺と一緒にいてくれぇーっ!」と自分の竜への愛を叫ぶ竜騎士の声にますます母の意図が読めなくなった。
とりあえず、黙っておこう。セオドアは十代の娘のように悪戯っぽい笑みを浮かべる母と、ぶつぶつとどんよりオーラを醸し出す父をみて、そう思う。
セオドアが「そろそろ行かないと!」と慌てて両親に別れを告げてから数十分後、ようやく立ち直ったセシルは時計をみるなり「あ、」と間抜けな声をだした。
「そろそろかな」
「何が?」
今度はローザが質問する番であった。予想通りの反応にセシルはにこりと微笑む。
「実はね、オファーが来たんだ」そうして台のほうを見て、恥ずかしげに眉を下げた。「出てくれないかって」
「そうだったの?」ローザは目を丸くする。
「緊張しなくて声が出なかったらどうしよう」
国王就任の演説のときより緊張してるかも、とセシルが苦笑した。プレッシャーに弱い夫の腕を支えるように絡ませ、大丈夫よ、と言い切った。
それから、とろけるような微笑を夫にむける。
そこには王妃としてではなく、ただ一人のひたむきな愛を捧げ続ける女性がいた。
「わざわざ声に出さなくても、愛されているって知っているもの」
そして私も、あなたを愛しているわ。