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土に還る、地球に優しい素材でできてます

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「あ、お帰りセルティ、愛してるよ!」
 新羅は愛する人を迎えるべく立ち上がった。この時ばかりは折原など気に留めない。折原は涼しい顔でそれを眺めていた。
『なんだ、客人か?』
「そうなんだよ。すぐに追い出すから待っ」
『そういう失礼な事をするなとあれほど……なんだ、こいつか』
「なんだとはひどいなあ」
 新羅だけに文字表示画面を見せていたはずだが、折原がいつの間にか覗き込んでおり、ひどいなと繰り返した。
「今日は仕事の依頼でもあるのに」
「仕事の話をしたらとっとと出て行って欲しいな!」
「はいはい」
 肩をすくめて返事をすると、折原はジャケットの内側をごそごそと漁り、すぐにそれを取り出してセルティに投げた。小型の記憶装置に鍵がテープで固定されている。
「八重洲中央口地下北側にあるコインロッカーにそれ入れて、代わりに中にある包みを回収して欲しいんだ。ロッカーはくっついてる鍵で開く。日付が変わるまでによろしくね。報酬はいつものところに振り込んどくよ」
『回収した包みは?』
「海にでも捨てておいて」
『不法投棄』
「土に還る、地球に優しい素材でできてます」
 にっこりと笑っている。セルティは嫌味しか感じない。新羅はため息をついて、折原に向いてこう言った。
「用事は済んだだろう」
「本当にひどいな。済んだけど、まだお茶も飲み終わってないのに。飲み終わるまで待ってよ」
「飲み終わるまでだからね!」
 きつく言うと、折原はわかったと頷いて、ちらりとセルティを見た。セルティはすでに仕事に行こうとしている。そんな彼女を見て、新羅はあわてた。
「あ、セルティ、急がなくてもいいじゃないか。少し休んで行っても。急いては事を仕損じる。臨也もすぐ出るって言ってるんだし」
『しかし』
「いいよ運び屋。もう飲み終わった」
 コーヒーテーブルの方を見ると、確かにティーカップの一つは空になっていた。
 情報屋を営む男は涼しい顔で、部屋を立ち去ろうとする。
「荷物忘れているよ」
 新羅がテーブルの上に載った紙袋を指摘すると、彼は振り向かずに言った。
「言っただろ、プレゼントだって。それじゃあまたね、新羅、運び屋」
 ぱたぱたと手を振りつつ、スキップのような軽い足取りで彼は出て行った。
「……なんだったんだろう、ねぇセルティ」
『知らん。お前の方が付き合い長いだろう』
「ぼくだって知らないよっ。あいつはよくわからないやつだし」
 昔から気まぐれでさぁという愚痴を無視して、セルティは置き去られた荷物に近付いた。
「あ、危ないよ。何が入っているかもわからないのに近付いちゃ駄目だ」
『一応友人なんだろうお前』
「信用できない友人なんだって。おれが開けるよ」
 新羅は恐る恐る紙袋を覗き込んだ。
 そして、無言で首を傾げる。
『何が入っていた?』
 黙ったまま中に手を入れて取り出す。
 白い、取っ手のついた箱だ。取っ手にはシールが張られており、有名な洋菓子店の名前が書かれている。箱の蓋には紙が挟まっていた。
『お菓子か』
「うん、そうみたい」
 紙には丁寧な文字で、新羅と運び屋に、と書かれている。
 開けてみると、三つのケーキがちょこんと鎮座していた。マロンクリームの香りが部屋に広がる。モンブランというやつだ。
「どういう風の吹き回しだい、本当に」
『三つあるという事は、単にお茶に来たんじゃないか?』
 セルティは箱を上から覗き込み、おいしそうだと入力しようとして、すぐに消した。考えてみれば自分は食べられない。
「ああっ、セルティにあげたって食べられないじゃないか!わかっていてこんなものを……これは単なる嫌味だな」
 そういう意図しかありえなさそうだな、と彼女も頷いた。
「冷血漢だと思っていたけどこれほどとは!なんてひどい。友達甲斐のないやつだ。大体あいつは昔から人が嫌がる事ばかりを」
 愚痴をはじめた新羅に、セルティは冷めた紅茶の代わりを入れる事にした。新羅はああいうが、プレゼントをするという事は向こうも友達だと思っているんだろう。きっと、たぶん。いや、甘いかな?などと考えながら、キッチンへ向かう。
「それに三つなんて、全部僕が食べろって言うのかい臨也め!肥えろと!太れと!」
 大きな声が響く。太った新羅……あまり見たくないなぁ、とセルティは思った。

 二人が紙袋の底の遊園地無料券に気がつくのは、まだまだ先の事、袋を捨てようとするまで待たなければならない。
 無料券が四人までな理由など、ましてや回収された包みが空箱だった理由など誰にも知られないまま、日常は続く。