こらぼでほすと 再会4
いつも寝坊する刹那なので、昼まで体調がおかしいとは気付かなかった。昼食時に、なんだか頬が赤いなーと、額に手をやったら、結構、熱かった。
「え? おい、熱あるんじゃないのか? 刹那。」
で、当人は、至極健康な子猫なので、よくわかってない。むーん、と、伸びをしてロックオンに、「うに? 」 とか、首を傾げるだけのことだ。
屋敷の人間に体温計を借りて計ったら、38度という結構な熱であることが判明した。
「おまえ、昨日、髪の毛をちゃんと拭かなかったな? だから、いつも言ってるだろうが、拭かないと風邪ひくって・・・・・・いや、こんなこと言ってる場合じゃない。」
叱ったところで、ぬぼぉーっとしている刹那は理解してないだろう。風邪薬を貰おうと思ったら、すでに医者の往診を頼んでくれていた。
診断の結果は、「風邪」。いや、それはわかります、と、ロックオンも、はい、と、頷くしかない。ただ、自分に移るとまずいから隔離したほうがいい、と、提案されたのは、即座に却下だ。というか、刹那が、きっちりと、ロックオンのパジャマを掴んでいて、離れたがらないのは明白だった。
「もう、いいです。今のところ、俺はリハビリしてるだけだし、急ぎの用事もないんだから、看病します。」
移るのは確実なので、移ったら、寝てればいいや、と、ロックオンは諦めた。どうせ、この調子では、刹那は離れないだろうし、隔離したら、それこそ、這ってでも戻ってくるだろう。医者のほうも、刹那の様子に、今夜、もう一度、往診します、と、苦笑した。
「りんごとかシュークリームとか食べるか? 」
「・・・・・チキンピラフ・・・・・」
「え? 」
「チキンピラフがいい。」
結構な熱だが、食欲はあるらしい。いつもなら、ロックオンだって、あいよ、と、さくさく作ってやるメニューだが、さて、フライパンは振れるだろうか、と、考えて黙り込む。持ち上がるが、煽ったりという動作が難しい。そして、この無言猫、リクエストするくせに、ロックオンのパジャマの袖は掴んだままだ。
怪我人と病人なので、屋敷の人間が、適当に顔を出すから、その人に、貰ったレシピのページをあけて、作ってくれるように頼んだ。
「まあ、食欲があるならいいか。よく考えたら、おまえも無菌状態で暮らしてたもんな。これだけ、人の出入りがある場所じゃ、風邪ぐらいひくよな。」
組織の活動をしていた時も、地球でも、ほとんど人との接触はしていない。それに、母艦は宇宙だ。そういう状態でいたのだから、風邪ぐらいひくだろう。
「・・・・・ロックオン・・・・・」
「ん? 」
「喉痛い。」
そりゃ、風邪だからな、と、ロックオンも苦笑する。キラが差し入れてくれたお菓子の中に飴玉があったな、と、それをサイドボードから探し出して、刹那の口に放り込む。
食事させて、薬を飲ませて、汗をかいたから、パジャマを着替えさせようとして、自分の握力がないことに、かなり愕然とした。タオルを絞るのが、ひと苦労で、さらに絞りきれないのだ。
・・・・・うわぁー、何? 俺?・・・・・・
熱いタオルで身体を拭いてやろうと思ったが、絞れない。それに、傍を離れて、一定時間が経つと、刹那がふらふらと探しに来る。ちょっと考えて、乾いたタオルと、ちょっと滴が垂れている熱いタオルで交互に身体を拭いて、パジャマを着替えさせた。
「はい、終わり。すっきりしたろ? とりあえず、風邪は寝てれば治るから。」
「・・・・ロックオン・・・・・」
「はい、なんだ? 」
「昼寝。」
「ああ、そうだな。」
食事した後、いつも、横になっているので、ロックオンも寝ろ、ということらしい。えふえふと咳をしている刹那と同じベッドで寝ているのだから、そりゃ、もう、盛大に移るだろうよ、と、ロックオンは笑う。
「たぶん、次は俺が風邪ひくから、おまえが、俺の世話をしてくれな? 」
「ああ。」
昨日まで、一言も口を聞かなかった無言猫は、今日は、それを忘れているのか、ちゃんと受け答える。
「ハロが・・・」
うとうとしかけていたロックオンの耳に、刹那の声がする。
「ハロが、ロックオンのこと呼んでて・・・・俺は、あんたが爆発に巻き込まれて・・・・いなくなって・・・・・それまで、人が死ぬことなんて、なんにも感じなかったのに・・・・怖くなった・・・・・ロックオンが悪い。ムカムカした。・・・・口を開いたら怒鳴りそうで・・・・・」
だから、無言だったのだ。キラが先日、指摘したことは、ほぼ正解で、怒鳴りたくない、むしろ、嬉しいのに、でも、ムカムカして、やっぱり怒鳴りそうだから、刹那は黙っていた。
まあ、そんなことだろうよ、と、ロックオンは、「悪かった。」 と、謝って、刹那を抱き締めてやる。ここで泣けば可愛いのだが、この子猫は頑固なので、それはない。ぎゅっと、ロックオンのパジャマを掴んで、ふう、と、息を吐く。
「ごめんな、刹那。」
「もういい。寝ろ。」
「腕枕してやろうか? 」
「うるさい、変態。」
「おまえ、今なんつった? 」
「変態。俺は眠い。寝かせろ。邪魔するな。」
でも、触るな、とは言わないのだ、この子猫。くくくくくく・・・・と、肩を震わせて、ロックオンが刹那の頭を撫でていると、刹那のほうが先に寝息になった。着替えさせた後片付けとか、自分の食事とか、ロックオンは、いろいろとしたいことがあったのだが、パジャマを掴まれていて動けない。後で、どうにかしようと、とりあえず、昼寝に突入することにした。
次に目を覚ましたら、覗きこんでいる刹那の顔があって、その額に手をやったら、あまり熱くなくて、ほっとした。出窓の向こうは、すっかりと日が落ちている。随分と長い昼寝をしていたらしい。
「もう夜か? 」
「ああ。」
「腹減ったんなら、メシ食ってこい。俺、今、眠いからいいや。」
「いや、あんた、熱がある。」
「早いな。」
「そうだな。医者が来るそうだ。」
「そうか、さすが、医者。・・・・あ、脱衣所、片付けてくれ、刹那。」
「ああ。」
以前のように、刹那が反応しているのが、おかしくて、ロックオンが笑い出す。些細なことで、どうにもできなくて黙っていた刹那が可愛いと思う。
「おかしくなったか? 」
「うるさい、バカ猫。」
「俺は人間だ。」
「じゃあ、ちゃんと喋るんだな? 俺に以心伝心なんてものは通用しねぇーからな。」
「了解した。」
スタスタと脱衣所へ歩いて行くところを見ると、風邪のほうは、もう快方に向かっているらしい。そして、自分は、あんなに簡単には回復しないんだろうな、と、いう予想はついた。
再度、往診してくれた医者は、「二、三日は安静に。」 と、刹那にはしなかった点滴までして帰って行った。快方に向かっている刹那も、えほえほと咳はしているので、ふたりしてベッドで大人しくしているしかない。
「え? おい、熱あるんじゃないのか? 刹那。」
で、当人は、至極健康な子猫なので、よくわかってない。むーん、と、伸びをしてロックオンに、「うに? 」 とか、首を傾げるだけのことだ。
屋敷の人間に体温計を借りて計ったら、38度という結構な熱であることが判明した。
「おまえ、昨日、髪の毛をちゃんと拭かなかったな? だから、いつも言ってるだろうが、拭かないと風邪ひくって・・・・・・いや、こんなこと言ってる場合じゃない。」
叱ったところで、ぬぼぉーっとしている刹那は理解してないだろう。風邪薬を貰おうと思ったら、すでに医者の往診を頼んでくれていた。
診断の結果は、「風邪」。いや、それはわかります、と、ロックオンも、はい、と、頷くしかない。ただ、自分に移るとまずいから隔離したほうがいい、と、提案されたのは、即座に却下だ。というか、刹那が、きっちりと、ロックオンのパジャマを掴んでいて、離れたがらないのは明白だった。
「もう、いいです。今のところ、俺はリハビリしてるだけだし、急ぎの用事もないんだから、看病します。」
移るのは確実なので、移ったら、寝てればいいや、と、ロックオンは諦めた。どうせ、この調子では、刹那は離れないだろうし、隔離したら、それこそ、這ってでも戻ってくるだろう。医者のほうも、刹那の様子に、今夜、もう一度、往診します、と、苦笑した。
「りんごとかシュークリームとか食べるか? 」
「・・・・・チキンピラフ・・・・・」
「え? 」
「チキンピラフがいい。」
結構な熱だが、食欲はあるらしい。いつもなら、ロックオンだって、あいよ、と、さくさく作ってやるメニューだが、さて、フライパンは振れるだろうか、と、考えて黙り込む。持ち上がるが、煽ったりという動作が難しい。そして、この無言猫、リクエストするくせに、ロックオンのパジャマの袖は掴んだままだ。
怪我人と病人なので、屋敷の人間が、適当に顔を出すから、その人に、貰ったレシピのページをあけて、作ってくれるように頼んだ。
「まあ、食欲があるならいいか。よく考えたら、おまえも無菌状態で暮らしてたもんな。これだけ、人の出入りがある場所じゃ、風邪ぐらいひくよな。」
組織の活動をしていた時も、地球でも、ほとんど人との接触はしていない。それに、母艦は宇宙だ。そういう状態でいたのだから、風邪ぐらいひくだろう。
「・・・・・ロックオン・・・・・」
「ん? 」
「喉痛い。」
そりゃ、風邪だからな、と、ロックオンも苦笑する。キラが差し入れてくれたお菓子の中に飴玉があったな、と、それをサイドボードから探し出して、刹那の口に放り込む。
食事させて、薬を飲ませて、汗をかいたから、パジャマを着替えさせようとして、自分の握力がないことに、かなり愕然とした。タオルを絞るのが、ひと苦労で、さらに絞りきれないのだ。
・・・・・うわぁー、何? 俺?・・・・・・
熱いタオルで身体を拭いてやろうと思ったが、絞れない。それに、傍を離れて、一定時間が経つと、刹那がふらふらと探しに来る。ちょっと考えて、乾いたタオルと、ちょっと滴が垂れている熱いタオルで交互に身体を拭いて、パジャマを着替えさせた。
「はい、終わり。すっきりしたろ? とりあえず、風邪は寝てれば治るから。」
「・・・・ロックオン・・・・・」
「はい、なんだ? 」
「昼寝。」
「ああ、そうだな。」
食事した後、いつも、横になっているので、ロックオンも寝ろ、ということらしい。えふえふと咳をしている刹那と同じベッドで寝ているのだから、そりゃ、もう、盛大に移るだろうよ、と、ロックオンは笑う。
「たぶん、次は俺が風邪ひくから、おまえが、俺の世話をしてくれな? 」
「ああ。」
昨日まで、一言も口を聞かなかった無言猫は、今日は、それを忘れているのか、ちゃんと受け答える。
「ハロが・・・」
うとうとしかけていたロックオンの耳に、刹那の声がする。
「ハロが、ロックオンのこと呼んでて・・・・俺は、あんたが爆発に巻き込まれて・・・・いなくなって・・・・・それまで、人が死ぬことなんて、なんにも感じなかったのに・・・・怖くなった・・・・・ロックオンが悪い。ムカムカした。・・・・口を開いたら怒鳴りそうで・・・・・」
だから、無言だったのだ。キラが先日、指摘したことは、ほぼ正解で、怒鳴りたくない、むしろ、嬉しいのに、でも、ムカムカして、やっぱり怒鳴りそうだから、刹那は黙っていた。
まあ、そんなことだろうよ、と、ロックオンは、「悪かった。」 と、謝って、刹那を抱き締めてやる。ここで泣けば可愛いのだが、この子猫は頑固なので、それはない。ぎゅっと、ロックオンのパジャマを掴んで、ふう、と、息を吐く。
「ごめんな、刹那。」
「もういい。寝ろ。」
「腕枕してやろうか? 」
「うるさい、変態。」
「おまえ、今なんつった? 」
「変態。俺は眠い。寝かせろ。邪魔するな。」
でも、触るな、とは言わないのだ、この子猫。くくくくくく・・・・と、肩を震わせて、ロックオンが刹那の頭を撫でていると、刹那のほうが先に寝息になった。着替えさせた後片付けとか、自分の食事とか、ロックオンは、いろいろとしたいことがあったのだが、パジャマを掴まれていて動けない。後で、どうにかしようと、とりあえず、昼寝に突入することにした。
次に目を覚ましたら、覗きこんでいる刹那の顔があって、その額に手をやったら、あまり熱くなくて、ほっとした。出窓の向こうは、すっかりと日が落ちている。随分と長い昼寝をしていたらしい。
「もう夜か? 」
「ああ。」
「腹減ったんなら、メシ食ってこい。俺、今、眠いからいいや。」
「いや、あんた、熱がある。」
「早いな。」
「そうだな。医者が来るそうだ。」
「そうか、さすが、医者。・・・・あ、脱衣所、片付けてくれ、刹那。」
「ああ。」
以前のように、刹那が反応しているのが、おかしくて、ロックオンが笑い出す。些細なことで、どうにもできなくて黙っていた刹那が可愛いと思う。
「おかしくなったか? 」
「うるさい、バカ猫。」
「俺は人間だ。」
「じゃあ、ちゃんと喋るんだな? 俺に以心伝心なんてものは通用しねぇーからな。」
「了解した。」
スタスタと脱衣所へ歩いて行くところを見ると、風邪のほうは、もう快方に向かっているらしい。そして、自分は、あんなに簡単には回復しないんだろうな、と、いう予想はついた。
再度、往診してくれた医者は、「二、三日は安静に。」 と、刹那にはしなかった点滴までして帰って行った。快方に向かっている刹那も、えほえほと咳はしているので、ふたりしてベッドで大人しくしているしかない。
作品名:こらぼでほすと 再会4 作家名:篠義