こらぼでほすと 再会4
到着した八戒は、そこに再度、往診に来ていた医師と、顔を合わせた。八戒たちを運んできたヘリで、医者は戻るからだ。あまり熱が下がらないようなら、地下のラボにある医療ルームへ移すから、と、説明された。体力不足で免疫力ガタ落ちの親猫は、下手をすると肺炎を併発するぐらいに弱っているとのことだ。解熱剤やら鎮静剤やら、いろいろと薬のほうは準備して置いてきたが、あまり、熱が上がるようなら、すぐに連絡を、と、医者に言われて、八戒も頷く。
歌姫様御用達の医者は、地下のことも知っているし、いろいろな事情も理解してくれているから、やりやすい。
「ビンゴってとこか? 」
「いや、今更ですよ、悟浄。」
早々に感染したらしいロックオンに、笑うしかない。つまり、二人分の看病なんだな、と、覚悟を決めて、部屋を覗いたら、子猫のほうは、首にタオルを巻かれて、ベッドに、ちょこんと座って、プリンなんか食べている。
「カーディガン・・・・・あーティエリアが着てたピンクのやつ。それと靴下履け。ぶり返したら大変だからな。」
そして、そのもりもりプリンを食べている子猫に、いろいろと注意しているほうは、かなりだるそうに寝返りを打っていたりする。
「いや、あんたが大変だろ? 今現在。」
悟浄が、ツッコミを入れて、刹那の頭をポンと叩く。随分と風邪は楽になったのか、刹那のほうは顔色も普通だ。
「あれ? 悟浄さんと八戒さん、こんな時間に、どうかしましたか? 」
「いや、どうかしてんのは、おまえだ、ロックオン。よう、綺麗なお兄ちゃん、ちったあ、自分の具合を考えてくれよ。」
「さっき、医者に薬は貰ったから、大丈夫ですよ。割と軽かったみたいで・・・」
「いや、だから、せつニャンじゃねぇーよ、おまえだって。」
母の鑑とでもいう態度なのだが、相当、具合が悪そうなロックオンには、悟浄だって怒鳴りたくない。
「悟浄、どいてください。刹那君、乾いたタオルを何枚かくれますか? 」
説教するより、熱を上げないほうが優先だ。屋敷の内線で、保冷剤をいくつか持ってきてほしい、と、頼み、それから、刹那の運んできたタオルを手に洗面所へ赴く。
「ロックオンの着替えは、どこですか? 」
「ここ。」
「刹那くんは着替えたんですか? 」
「さっき、着替えた。」
動けなくなる前に、と、ロックオンが、もう一度、刹那の身体を、さっきと同じ要領で拭いて着替えさせた。食事も、刹那だけは運んで貰って食べさせて、そこまでやったら、動けなくなったらしい。すっかり咳だけになった刹那は、物足りないと、プリンを食べていたところだった。
・・・・・過保護すぎですよ? ・・・・・
世話好きだとは知っていたが、そこまでマメだとは思わなかった。というか、具合が悪くなる前に、刹那だけは、どうにかしたかったというところだろう。
「刹那君、僕がやることを覚えてくださいね。ロックオンの世話は、刹那君の仕事です。」
「ロックオンにも言われた。」
「じゃあ、タオルを絞りますから、それで身体を拭いてあげてください。それから、着替えてもらいますから。」
こくこくと、二度ほど、刹那は頷いて、熱いタオルを手にして戻って行く。背後から、「あつー」 とか言う声が聞こえているが軽く無視だ。着替えを手にして戻る頃に、保冷剤も届いた。悟浄が、気付いて、それを乾いたタオルで包む。着替えの騒ぎで、ぐってりしたロックオンの脇や首許に、保冷剤を置いて、枕は、アイスノンに取り替える。
「ロックオン、あまり熱が上がるようなら入院です。」
「え? 」
あー、うちの人、笑ってないよ、笑ってるけど、と、悟浄は、こっそり刹那の背後に移動する。
「それがイヤなら、刹那君の世話は、三日間やらないで、大人しく寝ていてください。刹那君、となりに寝るのは許可しますけど、全部、自分でやってください。それと、ロックオンが、トイレ以外に動くのは阻止してくださいね。」
八戒の作り笑顔というのは、怖い。喋っている言葉は軟らかいのだが、なんだか、寒いものが付きまとっている。
「あの、八戒さん? 俺、そこまで弱ってないんですが・・・・・」
「あなたが、いつも通りに動いていると、確実に肺炎だそうですよ? ロックオン。」
まだ、何か? と、八戒は微笑んでいるのだが、「大人しく寝てろ」 と、顔に書いてあるので、ロックオンもたじろいだ。
「なあ、せつニャン、おまえのおかーさんが具合悪いんだから、自分でなんでもするよな? ついでに、おかーさんの看病もできるよな? 」
背後から、刹那の頭を撫でつつ、「あんまりキツくしてやるな。」 と、八戒を視線で窘める。さっきまでとは、立場が逆転だ。まあ、この辺りでやめましょうか、と、八戒も話題を変える。
「食事してないんですよね? 」
「ええーっと、食欲がなくて。」
「刹那君、さっきのプリン、まだありますか? それ、持ってきてください。悟浄、解熱剤を出してくれませんか? 」
てきぱき、手はずを整えている八戒には、誰も逆らえない。大人しく全員が、命じられるままに動いた。
「僕らは、二つ向こうの部屋にいますから、何かあったら、内線を押すか、呼びに来て下さい。」
ま、たぶん、大人しいでしょうけど? と、鬼の看護人が部屋から出て行くと、刹那もロックオンも、ほおーと息を吐いた。あれで、逆らったら、確実に、ヤバイ。
「刹那、寝ようか? 」
薬が効いているのか、ぼおーっとした頭でロックオンが刹那を呼ぶと、大人しく、刹那もベッドに入った。よく見たら、首に巻いておいたタオルが外れている。汗を拭くように、と、置かれていたタオルを、刹那の首に巻いてやる。
「これぐらいはいいよな? 」
世話をするな、と、言われたが、これぐらいはやってもいいだろう。
「ロックオン。」
「ん? 」
「肺炎になるな。」
「はいはい、俺は、そこまで弱ってない。」
あっちこっちに配置されている保冷剤のお陰か、少し身体が楽になった。三日間禁止ということは、三日間ぐらいは寝込むってことだろうとか、ロックオンは考えて、溜息を付いた。
どうにか、ひと段落ついたら、小腹が空いてきた。いつもなら、開店前に軽くつまむのが、完全にすっ飛ばしていたからだ。
「何か簡単なものでも用意しましょうか? 」
「そうだな。」
万が一、刹那が呼びに来た場合を考えて、ドアに、「台所にいる」 と、張り紙をして、部屋を出た。まだ、深夜という時間ではないが、それでも、灯りは落とされていて廊下はフットライトだけになっていた。
「あれなら、うちのサルに相手させたら、いんじゃねぇ? そうすりゃ、ロックオンは、ゆっくりできるだろ? 」
「そうですね。刹那君のほうは、咳だけみたいですから。」
作品名:こらぼでほすと 再会4 作家名:篠義