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冷たくて

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穏やかな休日というものにありついたのは本当に久々だなぁ、などと感慨に浸っていたのがよくなかったのかもしれない。肌寒い部屋の中で適度な温もりを保った布団にくるまりながら、いつまでたっても鳴る兆しをみせない目覚まし時計を見つめるというのは多分、北高に入学して、SOS団の団員その1に任命されてから数えきれるほどのような気がする。いや、多分実際そうなんだろう。

 中学時代の俺だったら想像もできないだろうな。学校のない日は妹につきあう意外では割と積極的に家からでないようにしていたのが、高校に入学し、涼宮ハルヒなるとんでもない女に出会ってからは休日に家にいる日がほとんどないということと、100m走の世界記録保持者も驚くくらいの速度で減っていく財布の中身に。

 そうだ、寒いのは部屋の中だけではなくて財布の中身もだったということに気がついても、月末が近い今日、しばらく財布の中に福沢諭吉先生らが突然現れてくれる予定も、魔術も持たない俺は途方に暮れるしかない。幸い残り少ない今月は平日を残すのみとなっており、どんなに言い渡された時間より早く集合場所に行っても残りの面子が集まっているという、不可抗力も良いところな休日は訪れることはない。一体奴らは何時に来ているのだろうか。長門や古泉なんかはもしかしたら一時間半以上も前に来ているかおしれないが、朝比奈さんは……っと、たとえ朝比奈さんが一番最後に集合場所に現れたとしても、その日の支払いは俺が、むしろ進んで引き受けますので安心してくださいねと、心の中でわけの分からない問答を繰り広げていると、枕元に置かれていた携帯電話が静かに震え始めた。

 まさかハルヒじゃないだろうな、と訝しむも、携帯は4回震えた後沈黙した。この時間に何か用事があるときにハルヒはメールなどという面倒な手段を使うだろうか。答えは言うまでもなく否だ。
 だとしたら、メールの差出人は誰だろう。
 差し詰め谷口あたりからの、明日のリーダーで当たっている範囲を教えてくれ、できれば解答つきで、などという他力本願な内容もメールなのだろう。おまえもなかなか学習しない奴だな谷口よ。そういうことは俺ではなく国木田へ言った方が確実じゃないか?
 でもそうだな、範囲くらいなら教えてやらんこともない。
 金曜日に持ち帰ったままの鞄に入っている教科書をめくるのは、このあまりに心地よすぎて下手したら一日中寝転がっているかもしれないベッドを抜けるための良い理由になるからな。

 こんなにいろいろ考えてメルマガの類だったら今日は一日不貞寝決定だ、などと心の中でひっそりと自分ルールを作りつつ開いた携帯には予想の斜め上を行く結果が表示されていた。
 曰く、不在着信1件。
 メールだと決め込んでいた着信は電話だったらしいハルヒがたった4コールで通話を切るとは考えがたいのでハルヒという案は却下。だとしたら、こんな時間に誰だ。谷口か。間違い電話か。つーかそれくらいしか心当たりが無いっていうのはどうなんだ、俺よ。
 まぁ、誰でもいいさ。そう思いつつ、せめて間違い電話ではあってくれるな、朝比奈さんだったらとっても嬉しいです、そんな下心をこめながら決定キーを押し、
「おお」
 表示された名前を見て思わず声がでてしまった。

【不在着信1件:古泉一樹】

 なんだ、どうした。
 電話してみたもののコールしている間に時計でも見て、もしかしたら俺がまだ寝ているかもしれない、起こしたら悪いだろうなぁとか思ってたった4コールで切ってしまったんだろうか、ちょっと可愛いじゃないか。
 名前を見ただけでそこまで妄想できる自分の思考回路と、ほどよく緩んでいるこの表情を半年前の自分が見たら何と言うだろうか。
 多分、「あなたの思考回路は割と単純だと思っていましたが、実は涼宮さんより不可解だったんですね」とでも言うんだろう。そして、芸能人みたいに無駄に整った顔を笑みに変えてこう言うんだ。
 ――正気ですか?
 残念だったな、俺は正気だ。
 SOS団には美少女が3人もいるのになぜ男の古泉に走ってしまったのかは分からない。自覚をしたのは唐突で、 不器用ながらも付き合いが始まったのも唐突だった。
 ただひとつだけ言えるのは、SOS団には美少女が3人いるが、同時に美少年も一人いたという、ただそれだけのことなのかもしれん。
 古泉のために弁解してやると、別に顔だけで奴を気に入っているわけではないし、もちろん『機関』や超能力に惹かれたわけでもない。能力だけを見るならやはり、長門様の性能に勝てる奴はきっといないだろうからな。
「……っと」
 冷たい空気に熱を奪われ始めた指先で、携帯電話を操作して、耳元に宛てる。もちろん、この携帯電話は古泉に着信中だ。
「俺だけど」
 きっちり2コール目で通話を開始した携帯の向こう側へ、声をかける。
『……ええ、存じ上げております』
 存じ上げておりますってお前、どこの社会人だよ。
 古泉の敬語には大分慣れたつもりだったけれどまだまだ認識が甘かったかもしれない。
「どうした?」
『どう……と言われると困ってしまうのですが』
「はぁ?」
『えーっと……』
 携帯を手に、眉尻を下げて笑う古泉の姿が瞼の裏に浮かび上がる。
 瞼の裏にって、いつの間に目を閉じていたんだと自分でもびっくりした。やめろ、気持ち悪いだろ俺。休日の少し早く目が覚めてしまった朝、ベッドの中で男に電話して、ましてやそいつの顔を思い浮かべるなんて世も末だ。
「用件は手短に、的確に頼む」
『……』
 いつもなら、頼みもしないのに難しい話を止めるまでやめないその口が口籠るだなんてらしくないにも程がある。
 何かあったのか? とか、うっかり声をかけそうになってしまうからやめてくれ。
 ベッドの中で寝返りをうち白い壁と向き合うと、部分的に冷たい布団の恩恵からか、少しずつそろそろベッドを出ようか、なんて気持ちになってきた。電話も掛かってきていることだし、上体を起こすくらいはしてやった方がいいのかもしれない。きっと古泉もベッドに座って電話をしてるんだろうしな。いや、どうだろう案外ベッドの中で丸まってたりしてな。
『実は、手が』
 携帯を持ちかえて耳に近付けたとき、手が、と気持ち弱めの声で囁かれるのを俺の耳は探知していた。
「手がどうした?」
『……冷たくて』
作品名:冷たくて 作家名:東雲