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自信家の女の子Bと僕の話

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二人を見送った後、手に握ったままの千円札をじっと見ながら、一人で電車に乗った。
どうせ三木ちゃんの最寄り駅は定期内だから、とか、往復しても明らかに余る、とか、同い年なのに、とか言いたいことはあったのだけれど、何にも言えなかったなぁ、と僕は皺のついた千円札を何度も伸ばしながら考えた。女の子を送るのにタクシーを使う僕と、背負っていく彼には、予想以上に大きな隔たりがあるのかもなぁ、なんて、柄にもなくセンチになったりしてしまって、隣に座った見知らぬサラリーマンの革靴の先っぽの汚れをなんとなく見つめていた。



「降ろしてください……」
「歩けもしない癖に偉そうに言うなバカタレ」
「うぅ」
背負われながら、情けない気持ちで先輩の首元に顔をうずめた。この問答も何度目か、だ。夜風に当たって若干酔いが醒めてきた私は、恥ずかしさからもう降ろしてもらいたかったのだけれど、それを先輩は絶対に許してくれなかった。
「いつから、駅で待ってたんですか、先輩」
「聞いてどうすんだ」
つっけんどんに返されて、肩をすくめる。
「……どうも、しないですけど……でも、申し訳なくて」
「申し訳ないと思うなら男と二人でこんなになるまで飲むんじゃない」
「……先輩、怒ってます?」
「どう思う」
「……」
「怒ってるに決まっとるだろうが」
先輩は深い嘆息をひとつした。
「こんな夜中に!男と!二人っきりで!俺がいなかったら家まで送られてただろうが」
「だ、だって」
語気を荒げる先輩の表情は背中越しでは見えない。せめて先輩が離れていかないように、と首に回した手を更にきつく巻きつける。
「だって……タカ丸さんですよ?」
「斉藤だって男だろうが」
ぴしゃりと言われて押し黙る。タカ丸さんは、高校からずっと一緒だし、誰にでもすごく優しくて、男の人だけど男の人って感じがしなくて、私の他にもたくさん女友達はいるし、先輩の話とかちゃんと聞いてくれるし、そんな、そういうんじゃ、絶対ないのに、とどんなに訴えたところで先輩には分かってもらえないのだろうな。
歩を進めるに従って身体が揺れる。背中から先輩の体温がする。
「先輩、重く、ないですか」
「……軽い。何食ってんだお前」
「……普通に食べてます」
見てるでしょう?と悪態をつくと今度は先輩が押し黙った。勝負に勝った気持ちで、先輩の肩に顎を載せて目を閉じると、たまらなく幸福だった。
「迎え、来てくれてありがとうございます」
そっと囁くように言うと先輩は一瞬たじろいだように肩を揺らしたが、私に聞こえるか聞こえないかの声で「おう」とだけ言った。
真夜中の蛍光灯が照らすのは、私と先輩だけ。