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君だけに首ったけ!

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学園祭の季節になると生徒会の仕事が増えた。いつもは生徒会なんて機関のことを無視してた生徒たちがこぞって仕事を運んでくる。理不尽だ、俺は毒づいてデスクの上の書類を、足元に置いてあった段ボール箱の中に放った。段ボールには赤文字で「返却」と書いてある。その箱を足で横のデスクのほうへ押しやり、そこに座る人物に顎で指示した。
ペンで書類にチェックをしていた人物、フランシスは顔をあげて呟いた。
「何?お兄さんに行けって?」
「当たり前だろ髭。働け」
さも当然とばかりに俺は顔も上げずに告げた。デスクの上では書類が踊っている。学園祭で催される予定の個性豊かな企画書だ。喫茶店、ダンス、女装コンテストなんてのもある。しかし計画不足のものや、健全さに欠けるようなものは即刻落とされる。いや、俺が落とす。生徒会長の特権といっても過言ではなかった。
朝も昼も放課後も。ここのところ生徒会室ではこのような書類との睨み合いが頻繁に行われているのだった。催し物の代表者とコンタクトをとったり、教員に承認を受けたりもする。それはそれはストレスが溜まる。隣に座る髭がさらにイライラを増進させる(なんでったって、こいつが副会長なんだ?投票者の頭の中身を疑う。できることならこいつに投票した理由について一晩かけて語り明かしたいくらいだ)。少しくらいそいつを酷使したところで、神は俺を罪に問うまい。そんなような確信だけは持ち合わせていたのだった。
「働けって、お前。お兄さん、まだお昼も食べてな」
「良かったな、痩せろ」
曖昧な笑みと共にフランシスが放った一言を、言い終わらないうちに遮ってから、俺はまた作業に没頭した。
「っこの……」
フランシスは手をわななかせ、何か言いたげにしていたが、やがて諦めたようにすぅ、と息を吐くと行けばいいんでしょうよ、行けば、とチェアにかけてあったジャケットを手にした、その時。俺の携帯(はっきり言って型が古い。俺はあまり携帯は基本的な機能以外は使わなかったから、そう新型である必要もなかったが、あまりかっこよくないよそれ、変えたら、と何度も言われている。誰にって、そりゃ)が鳴った。ディスプレイを見ると着信の文字、相手はあいつだ(アルだった)。
俺は即座に携帯を手にすると、ジャケットを羽織り段ボールを抱えて出て行こうとするフランシスを押しやり、廊下で通話に応じた。実はフランシスにぶつかった時、ぶぎゃ、という間抜けな声がして、続いて紙が散らばる音がした。段ボールをひっくり返したのかもしれないな、と思いながらも、俺は振り向かなかった。この時ばかりは、アルとの電話が一番大事なんだ、何よりも。携帯を耳に当て、むず痒い緊張感に少し咳払いする(哀しいことに、実はアルと会話するのは久しぶりのことであった。最近は生徒会室にこもりっきりであったから、なんと一週間ほど、顔も見ていない)。
「……もしもし」
「あ、アーサーかい」
久しぶりに聞いたアルの声は、それはそれは透き通っていて、それでいて軟らかい響きを持っていた。その響きだけで頬の筋肉を弛緩させるのに充分なほどだった。本当だ。俺の耳が美化してるわけじゃあ断じてない。でもアルには言わない。きっと嫌がるだろうから。
俺はこんな風にアルの声を久しぶりに聞いた喜びに浸っていたのだけど、アルのほうはそんな余裕は無いようだった。焦った声が耳元に飛び込んできた。
「アーサー、君、今ちょっといいかい、緊急事態なんだ!」
俺は呆気にとられて一瞬黙ったが、すぐに、何かあったのか?、と問い返した。しかしアルは理由も告げず
「とにかく緊急なんだ、ホールにいるからね、すぐに来てくれよ!」
それだけ言って、勝手に通話を切った。俺はツーツーと虚しい音を立てる携帯電話を制服のパンツのポケットへねじ込むと、チッと小さく舌打ちをして、ホールのほうにむかって駆け出した。ホールは軽く食事ができたりする、生徒たちの憩いの場だった。学園祭では女装コンテストの会場になる予定だ、まぁそんなことはいいか。とにかく生徒会室の真下だ。同じ棟の一階にホールはあった。そこへ向かって駆け出す(後ろからフランシスがどこに行くんだ、だの、お前が一番理不尽だよ、だの叫んでいたが無視した。その言葉、聞かなかったことにしてやるから、ありがたく思えよ、髭)。

「ア、アル……」
「アーサー!早かったね!」
「早かったねじゃ、ねぇよ!……お前が緊急とか、言うから」
何事かと思って、とそれだけ言って、アーサーは深く息を吸って息を整える。
軽食をとる生徒たちで賑わうホールの入り口で俺が待っていると、電話してからきっかり3分で、アーサーはやってきた。3分って、前に本田の家で見せてもらったヒーローがやってくる時間と同じだな、なんて思った。あれ、いなくなる時間だっけ。まぁいいや。
アーサーと会うのは実は久しぶりで、その理由は彼の生徒会の仕事が立て込んでいたから、なんだけど、その仕事の真っ最中に、こんなに早く来てくれると思わなかったので俺はちょっとびっくりしてしまった。アーサー、君ってヒーローみたいだね、って言おうとして止めた。彼を調子に乗らせてしまうからね。何よりヒーローは俺なんだから。
相当走ってきたようで、アーサーは顔を赤くしてた。
その上、彼はタイもセーターも着ていなくて、ジャケットを羽織っただけでボタンもしないという、日頃の彼が一番嫌いそうな『だらしのない』格好をしていた。仮にも生徒会長なのに、こんな格好で生徒の集まる場所にやってきて大丈夫なのかな。俺が急かしたんだけど。
「……で、何があった?」
大分楽になったらしいアーサーに促されて、俺はやっと本題を思い出した。
「そう、そうなんだ!困ったことが起きてね、アーサーに助けてもらおうと思って」
「なんだ、どうしたんだ?」
なんだなんだ、というアーサーをホールの中に連れ込み、奥まで引っ張って行ったところで、足をとめ、俺は口を開いた。
「それがね……財布を忘れちゃって」
「…………は?」
「このプリン、買ってくれないかな?」
俺がアーサーを連れてきたのは、ホールのデザート売り場だった。ケースの中に綺麗な色のプリンが並んでいる。
アーサーは俺とプリンとを交互に眺めた後、脱力したように息を大きく吐いて、お前なぁ!と怒鳴った。
「お前が緊急とか言うから、本気で焦ったんだぞ俺は!プリンってなんだプリンって!」
「だって緊急とでも言わないと来てくれないじゃないか君」
「そ……んなことねぇよ」
「……いいよ、じゃあ、買ってくれないならフランシスに頼むから」
そういって俺が取り出した携帯を、アーサーは即座に奪って、代わりに彼の財布から紙幣を何枚か出して俺に掴ませた。
「買ってやる。何個でも買ってやるから」
そう言う彼の顔がとても必死だったので、俺は思わず笑ってしまった。
作品名:君だけに首ったけ! 作家名:ノミヤ