「楽園の作り方」1
「行こう、カイト」
「行ってらっしゃいませ」と声を掛ける女性達に目もくれず、マスターは、さっさと玄関の外に出ていった。
俺は、ナツキさんにお礼を言ってから、急いで外に出る。
玄関前に、黒塗りの車が横付けされていて、年輩の男性がドアを開けていた。
マスターは、後部座席に滑り込むと、中から俺を手招きする。
「え、あ、し、失礼します・・・」
そろそろと乗り込むと、花のような甘い香りがした。
シャンプーの匂いだろうかと、顔を上げたら、マスターと目が合う。
その瞬間、マスターがふっと微笑んだ。
っ!!
さ、さっきはよく見なかったけど、マスターって、すごく綺麗で可愛いくて・・・まるで、人形みたいだ。
自分で自分の顔が赤くなるのを意識しながら、視線を逸らしてマスターの隣に座る。
一拍置いて、車が滑るように動き出した。
車が止まったのは、郊外に建てられたマンションの前。
随分高そうだなあと考えていたら、運転手の男性が先に降りて、扉を開けた。
「ありがとう」
呟くように言ってから、マスターは車を降り、俺を手招きする。
慌てて車を降りると、マスターは、オートロックを開け、さっさと中に入っていった。
え、あの、え?
「カイト」
低く囁くような声。
マスターが、ドアを押さえて、こちらを見ている。
慌てて駆け寄ると、マスターは満足したように頷いて、エレベーターへと向かった。
エレベーターで高層階に運ばれ、いくつかの扉の前を素通りした後、マスターは足を止める。
手に持っていた小さな鞄から鍵を取り出し、扉を開けた。
「どうぞ」
「え、あ、はい」
促され、中に入る。
あがっていいのかどうか迷っていたら、マスターも入ってきて、扉を閉めた。
鍵とチェーンをかけた後、マスターは顔を上げ、
「あああああっ!つっかれたあああああ!!」
腕を上げ、全身を伸ばす。
「あー、もう、息が詰まりそう。あ、いいよ、あがって」
そう言って、靴を脱ぎ、ぱたぱたと廊下を走っていった。
・・・・・・え?え?
突然の様変わりに、俺が戸惑っていると、
「何してんの?おいでよ」
角から、ひょいっとマスターが顔を出す。
「あ、は、はい。失礼します」
マスターの声、意外と低いんだなあ・・・
廊下をそろそろと進んで、マスターが顔を出していた角を覗き込むと、そこはキッチンになっていた。
マスターは、冷蔵庫の中に頭を入れて、
「喉乾いちゃったよ。カイトも何か飲む?」
「え、あ、いえ、俺は」
「ああ、飲食と入浴は可能だけれど、必須ではない、だっけ?はは、お祖父様らしいよ」
麦茶のポットを手に、戸棚に近づく。
ガラスのコップを取り出すと、麦茶を注いで一気にあおった。
白い喉が、飲み下す度に上下する。
何故か見てはいけないような気がして、俺は慌てて目を逸らした。
マスターは、流しにコップを入れると、麦茶のポットを冷蔵庫にしまう。
そのまま、キッチンからリビングに向い、
「楽にして。ここが、僕の家だから」
「え?」
ソファーに腰を下ろすと、ブラウスのボタンを外しだした。
!?
「なっ!何して!!だ、駄目ですよ!!!」
急いで制止すると、マスターは、きょとんとした顔で、
「何が?」
「何がって!!お、俺は男性型ですから!!あの、マスターは、まだ子供ですけど、で、でも、あの、ま、マスターにそんなことしませんけど!!でも!!」
混乱しながらも、マスターの開いた胸元に、目が釘付けになる。
呼吸に併せて上下する襟元から、下着らしきレースが覗いていた。
最初、ぽかんとしていたマスターは、徐々に笑みを浮かべ、
「何だ、聞いてないんだ。ふふ、本当に徹底しているよね、本家の人間は」
「な、何を」
マスターは、ますます笑みを深める。
年に似つかわしくないほど、妖艶な微笑み。
「期待はずれで申し訳ないけど、僕、男だよ」