「楽園の作り方」2
「楽園の作り方」2
マスターの言葉が理解できなくて、まじまじと顔を見つめてから、
「・・・・・・え?」
「だからね、男なんだって。確かめてみる?」
「え?わっ!あっ!・・・・・・あ」
いきなり腕を掴まれ、マスターの胸に押し当てられた。
ブラウス越しの感触は、確かに女性のものではない。
うわ・・・えー・・・ああ・・・
驚きと混乱から、マスターの体を撫で回してしまった。
くすくす笑っていたマスターが、ふと眉を寄せ、頬を赤らめると、
「・・・カイトのエッチ」
「!?あっ!!ご、ごめんなさい!!!」
反射的に飛びすさると、マスターは盛大に吹き出して、
「あっははは!面白いね、カイトは」
「い、いや、あの・・・ええ?」
余程おかしかったのか、マスターはソファーにもたれて、くつくつ笑いながらこっちを見ている。
長い髪が幾筋か頬に張り付き、乱れた襟元から白いレースが覗いていた。
目のやり場に困って顔を俯ければ、膝上までめくれたスカートと、すらりとしたふくらはぎが視界に映る。
「まだ信じられない?」
マスターは、俺の返事を待たずに、スカートに手をかけると、
「こっちも・・・確かめてみる?」
!?
「いいいいいや!!いいです!!信じます!!!信じますから!!!」
慌てて制止すると、マスターはまた吹き出して、ソファーに突っ伏した。
・・・えーと。
「・・・マスターは、何故、女性の格好をされているのですか?」
まだ笑いが収まらない様子のマスターに問いかけると、マスターは、クッションに顔を埋めたまま、
「ふふ・・・そんな調子で、一緒に暮らせるの?」
「え?いや、あの、それは」
俺が慌てていると、マスターは顔を上げて、にこっと笑う。
「そのうち、ね。そのうち教えてあげる。もう少し、お互いのことが分かってから」
そう言って、指を一本立てると、自分の唇に当て、
「だから、内緒だよ。誰にも言わないでね、僕が男だってこと。知られたら、僕は楽園にいられなくなる」
「え?」
戸惑う俺に構わず、マスターはソファーを滑り降りると、
「シャワー浴びてこよ。カイトも一緒に入る?」
「うえぁ!?いいいえ!遠慮します!!」
思わず後ずさると、マスターはまた吹き出して、
「ふふっ。これから宜しくね、カイト」
「あ・・・はあ・・・宜しくお願いします」
上機嫌でリビングを出ていくマスターに、俺はため息をついた。
「おはよう、カイト。朝だよ」
マスターの声に、スリープモードが解ける。
リビングのソファーに座ったまま、目を開けると、マスターが俺の顔をのぞき込んでいた。
「うわっ!あ、おはようございます」
驚いて仰け反ると、マスターはくすくす笑って、
「そんなに驚かなくても。カイトは、僕のこと嫌い?」
「え!?いいいえ、そんなことは!!」
「だって、寝室にも来てくれないんだもん。夜、一人にするなんて・・・寂しかった」
拗ねたような上目遣いで言われて、自分の顔が赤くなるのが分かる。
言葉に詰まっていると、マスターは吹き出して、
「ふふ、ごめんごめん。これ以上は、本当に嫌われそうだね」
「え、あ、いえ、そんなことは・・・」
「朝ご飯にしようか。カイトも一緒に食べて」
「あ、はい」
立ち上がったマスターは、無地のシャツにジーンズという格好だった。
昨日とは随分雰囲気が違うな、と考えていたら、
「ん?この格好は、カイトの好みじゃなかった?」
「え?あ、いえ、あの」
「一人でいるときは、この格好なんだけどね。うん・・・これからは、身だしなみにも気を使わないと。カイトに嫌われたくないから」
「えっ、き、嫌ったりしませんよ!俺は!」
慌てて言うと、マスターは笑って、
「そう?そうだと嬉しいな。カイトだけは」
そこで言葉を切ると、マスターはトコトコとキッチンに向かう。
俺も急いで、マスターの後についていった。
マスターは冷蔵庫を開けて、卵や野菜を取り出しながら、
「食べられないもの、ある?」
「いえ、ありません」
「ふうん」
マスターは、流しの上に食材を並べる。
「辛いものは?」
「え?ああ、平気です」
俺の言葉に、マスターは少し意外そうな顔をして、
「そう。カイトは、辛いものが苦手なのかと思ってた」
「えっ・・・あ、すみません」
慌てて謝ると、マスターは笑って、
「何で?カイトが悪いの?」
「ええと、あの、俺は、マスターの希望に合わせて設定されてるはずですので、そこにズレがあると」
「カイトのせいじゃないよ」
マスターに遮られて、反射的に口をつぐんだ。
「大丈夫、カイトのせいじゃないから。本家の人達が、みんな決めちゃうんだ。僕の希望なんて、関係なしに」
「え、あ・・・」
強い口調に戸惑っていたら、マスターは俯いて、
「・・・本家の人達は嫌い」
ぽつりと呟く。
「向こうも僕を嫌ってる。いつも、酷いことばかり・・・」
「マスター・・・」
何を言えばいいのか迷っていたら、マスターは顔を上げて、
「ねえ、カイトは楽譜読める?」
「え?あ、はい。多少は」
「そう。ナツキ姉様が、沢山楽譜をくれたんだけど、ジャズとかクラシックばっかりなんだよね。僕には難しくて」
にこっと笑うと、流しで野菜を洗いながら、
「後で見せてあげる。とにかく、凄い量だから。一生かかっても、終わらないかも」
「え、うあ、はい。楽しみです」
「とにかく、凄いから」
くすくす笑うマスターにつられて、俺も笑顔になった。
「カイト、座って。一緒に食べよう」
「はい」
マスターがリビングのテーブルに、トーストとハムエッグ、サラダという朝食を並べる。
俺は、コップに牛乳を注ぐと、テーブルに置いた。
「ありがとう。座って?」
「あ、はい」
マスターの向かいに座ると、マスターは手を合わせて、
「いただきます」
「いただきます」
真似をして、手を合わせる。
マスターは、フォークを手に取ると、
「カイト、食べさせてあげようか?」
「え!?い、いいいや、いいです!!大丈夫です!!」
「遠慮しなくてもいいのに」
「し、してません!から!!ま、マスターが、食べてください!!」
慌てる俺に、マスターはくすくす笑って、
「そう?じゃあ、遠慮なく」
そう言って、サラダをつつき始めた。
内心ほっと息をついてから、俺もトーストにバターを塗る。
しばらく、お互いに無言でいたけれど、
「・・・なんだか、緊張する」
マスターが、ぽつりと言った。
「え?あの」
俺が何かしただろうかと戸惑っていたら、マスターは、ふっと笑みを浮かべる。
「カイトのせいじゃないよ。誰かと一緒に食べるのは、久しぶりだから」
ふふっと笑うと、首を傾げて、
「ずっと一緒にいてね、カイト」
「あ、はい。もちろんです」
嬉しそうなマスターの笑顔に、俺も笑顔を浮かべた。
朝食の片づけを終えて、マスターが両手に楽譜を抱えて持ってくる。
「まだまだあるんだけど、さすがに持ちきれないから」
「いや、これ、凄い量ですね・・・」
リビングの床に積まれた楽譜を手に取ると、マスターも隣に座って、
マスターの言葉が理解できなくて、まじまじと顔を見つめてから、
「・・・・・・え?」
「だからね、男なんだって。確かめてみる?」
「え?わっ!あっ!・・・・・・あ」
いきなり腕を掴まれ、マスターの胸に押し当てられた。
ブラウス越しの感触は、確かに女性のものではない。
うわ・・・えー・・・ああ・・・
驚きと混乱から、マスターの体を撫で回してしまった。
くすくす笑っていたマスターが、ふと眉を寄せ、頬を赤らめると、
「・・・カイトのエッチ」
「!?あっ!!ご、ごめんなさい!!!」
反射的に飛びすさると、マスターは盛大に吹き出して、
「あっははは!面白いね、カイトは」
「い、いや、あの・・・ええ?」
余程おかしかったのか、マスターはソファーにもたれて、くつくつ笑いながらこっちを見ている。
長い髪が幾筋か頬に張り付き、乱れた襟元から白いレースが覗いていた。
目のやり場に困って顔を俯ければ、膝上までめくれたスカートと、すらりとしたふくらはぎが視界に映る。
「まだ信じられない?」
マスターは、俺の返事を待たずに、スカートに手をかけると、
「こっちも・・・確かめてみる?」
!?
「いいいいいや!!いいです!!信じます!!!信じますから!!!」
慌てて制止すると、マスターはまた吹き出して、ソファーに突っ伏した。
・・・えーと。
「・・・マスターは、何故、女性の格好をされているのですか?」
まだ笑いが収まらない様子のマスターに問いかけると、マスターは、クッションに顔を埋めたまま、
「ふふ・・・そんな調子で、一緒に暮らせるの?」
「え?いや、あの、それは」
俺が慌てていると、マスターは顔を上げて、にこっと笑う。
「そのうち、ね。そのうち教えてあげる。もう少し、お互いのことが分かってから」
そう言って、指を一本立てると、自分の唇に当て、
「だから、内緒だよ。誰にも言わないでね、僕が男だってこと。知られたら、僕は楽園にいられなくなる」
「え?」
戸惑う俺に構わず、マスターはソファーを滑り降りると、
「シャワー浴びてこよ。カイトも一緒に入る?」
「うえぁ!?いいいえ!遠慮します!!」
思わず後ずさると、マスターはまた吹き出して、
「ふふっ。これから宜しくね、カイト」
「あ・・・はあ・・・宜しくお願いします」
上機嫌でリビングを出ていくマスターに、俺はため息をついた。
「おはよう、カイト。朝だよ」
マスターの声に、スリープモードが解ける。
リビングのソファーに座ったまま、目を開けると、マスターが俺の顔をのぞき込んでいた。
「うわっ!あ、おはようございます」
驚いて仰け反ると、マスターはくすくす笑って、
「そんなに驚かなくても。カイトは、僕のこと嫌い?」
「え!?いいいえ、そんなことは!!」
「だって、寝室にも来てくれないんだもん。夜、一人にするなんて・・・寂しかった」
拗ねたような上目遣いで言われて、自分の顔が赤くなるのが分かる。
言葉に詰まっていると、マスターは吹き出して、
「ふふ、ごめんごめん。これ以上は、本当に嫌われそうだね」
「え、あ、いえ、そんなことは・・・」
「朝ご飯にしようか。カイトも一緒に食べて」
「あ、はい」
立ち上がったマスターは、無地のシャツにジーンズという格好だった。
昨日とは随分雰囲気が違うな、と考えていたら、
「ん?この格好は、カイトの好みじゃなかった?」
「え?あ、いえ、あの」
「一人でいるときは、この格好なんだけどね。うん・・・これからは、身だしなみにも気を使わないと。カイトに嫌われたくないから」
「えっ、き、嫌ったりしませんよ!俺は!」
慌てて言うと、マスターは笑って、
「そう?そうだと嬉しいな。カイトだけは」
そこで言葉を切ると、マスターはトコトコとキッチンに向かう。
俺も急いで、マスターの後についていった。
マスターは冷蔵庫を開けて、卵や野菜を取り出しながら、
「食べられないもの、ある?」
「いえ、ありません」
「ふうん」
マスターは、流しの上に食材を並べる。
「辛いものは?」
「え?ああ、平気です」
俺の言葉に、マスターは少し意外そうな顔をして、
「そう。カイトは、辛いものが苦手なのかと思ってた」
「えっ・・・あ、すみません」
慌てて謝ると、マスターは笑って、
「何で?カイトが悪いの?」
「ええと、あの、俺は、マスターの希望に合わせて設定されてるはずですので、そこにズレがあると」
「カイトのせいじゃないよ」
マスターに遮られて、反射的に口をつぐんだ。
「大丈夫、カイトのせいじゃないから。本家の人達が、みんな決めちゃうんだ。僕の希望なんて、関係なしに」
「え、あ・・・」
強い口調に戸惑っていたら、マスターは俯いて、
「・・・本家の人達は嫌い」
ぽつりと呟く。
「向こうも僕を嫌ってる。いつも、酷いことばかり・・・」
「マスター・・・」
何を言えばいいのか迷っていたら、マスターは顔を上げて、
「ねえ、カイトは楽譜読める?」
「え?あ、はい。多少は」
「そう。ナツキ姉様が、沢山楽譜をくれたんだけど、ジャズとかクラシックばっかりなんだよね。僕には難しくて」
にこっと笑うと、流しで野菜を洗いながら、
「後で見せてあげる。とにかく、凄い量だから。一生かかっても、終わらないかも」
「え、うあ、はい。楽しみです」
「とにかく、凄いから」
くすくす笑うマスターにつられて、俺も笑顔になった。
「カイト、座って。一緒に食べよう」
「はい」
マスターがリビングのテーブルに、トーストとハムエッグ、サラダという朝食を並べる。
俺は、コップに牛乳を注ぐと、テーブルに置いた。
「ありがとう。座って?」
「あ、はい」
マスターの向かいに座ると、マスターは手を合わせて、
「いただきます」
「いただきます」
真似をして、手を合わせる。
マスターは、フォークを手に取ると、
「カイト、食べさせてあげようか?」
「え!?い、いいいや、いいです!!大丈夫です!!」
「遠慮しなくてもいいのに」
「し、してません!から!!ま、マスターが、食べてください!!」
慌てる俺に、マスターはくすくす笑って、
「そう?じゃあ、遠慮なく」
そう言って、サラダをつつき始めた。
内心ほっと息をついてから、俺もトーストにバターを塗る。
しばらく、お互いに無言でいたけれど、
「・・・なんだか、緊張する」
マスターが、ぽつりと言った。
「え?あの」
俺が何かしただろうかと戸惑っていたら、マスターは、ふっと笑みを浮かべる。
「カイトのせいじゃないよ。誰かと一緒に食べるのは、久しぶりだから」
ふふっと笑うと、首を傾げて、
「ずっと一緒にいてね、カイト」
「あ、はい。もちろんです」
嬉しそうなマスターの笑顔に、俺も笑顔を浮かべた。
朝食の片づけを終えて、マスターが両手に楽譜を抱えて持ってくる。
「まだまだあるんだけど、さすがに持ちきれないから」
「いや、これ、凄い量ですね・・・」
リビングの床に積まれた楽譜を手に取ると、マスターも隣に座って、