「楽園の作り方」2
「目を通すだけでも、日が暮れそうだよね」
「・・・確かに」
「ねえ、歌えそうなの、ある?」
「えーと、あの、うーんと・・・」
基本的な調律はされているけれど、今手元にある楽譜は、その程度では、とても歌えそうになかった。
「僕が教えてあげようにも、聞いたこともないような局も多くて」
マスターは、手に取った楽譜をめくりながら、
「とりあえず、簡単そうなのを見つけようか。まずはそれからだね」
「はい」
何枚も楽譜をめくり、マスターとこれはどうだとか、こっちは難しそうだとか言いながら、楽譜をより分けていく。
「・・・・・・・・・」
ふと顔を上げて、横に座るマスターを見た。
長いまつげが伏せられ、真剣な眼差しで楽譜を読んでいる。すっと通った鼻筋と、形の良い唇。まるで人形のように、整った顔立ち。
本当に綺麗・・・だよな。男だけど・・・。
化粧をしている訳でもない。
間近で見ても、男だと信じられないくらいだ。
しばらく、まじまじと見つめていたら、マスターは俯いたまま、
「カイト、見すぎ」
「えっ!?あ、すすすみません!!」
慌てて謝ると、マスターは吹き出して、
「いいよ。慣れてるから」
「あ、はあ・・・」
確かに、これだけ綺麗な顔立ちをしてたら、見ないほうがおかしい。
マスターは、きっと、何処に行っても注目されるんだろうな・・・。
「あの・・・これから気をつけます」
「何を?」
くすくす笑いながら、マスターは顔を上げる。
「変なカイト」
「いや、あの・・・ははは・・・は」
結局、山のような楽譜の半分も片づかないまま、夜になってしまった。
「もう、後はまた今度にしようか。ナツキ姉様は、限度を知らないから」
マスターは、楽譜を横に押しやると、立ち上がって、
「先にシャワー浴びてこよ。カイトも一緒に入ろう?」
「は・・・えええ!?なっ、あの、だ、駄目ですよ!!!」
「何で?男同士なのに」
くすくす笑いながら、首元のボタンを外す。
「入浴は大丈夫なんでしょ?どういう仕組みなんだろうね・・・興味あるなあ」
「うえ、あ、いや、あのっ」
どう返していいのか分からず、固まっていたら、マスターは手を伸ばして、俺の手に触れると、
「う・そ。カイトはここで待ってて。すぐ出るから」
そう言って、リビングを出ていった。
・・・・・・・・・・・・!!
頭がくらくらして、ソファーに倒れ込む。
「やばい・・・可愛い・・・」
頭では同性だと分かっているのに、動悸が押さえられない。
「いや、でも、マスターだし、な」
これから一緒に暮らすのだから、慣れなければいけない。
俺は、マスターのそばにいたい。だから。
「慣れる・・・のか?いや、慣れないとな。うん」
マスターのそばにいる為に。
「ずっと一緒にいる」と、約束したのだから。