「楽園の作り方」6
「え、それ、難しくないですか?」
「カイトなら大丈夫だよ。僕より上手じゃない」
「そんなことないですよ」
ここ最近、食事の支度は、俺がするようにしていた。
最初は、マスターに教わりながらだったのが、いつの間にかマスターが料理の本を揃えていて、あれこれとお願いされる。
俺は家庭用アンドロイドではないので、料理の知識や技術はそれほどではないのだけれど、マスターが喜んでくれるから、出来る限り応えたかった。
「・・・・・・というか、全体的に難しくないですか、この本」
「大丈夫、大丈夫。切って焼いて煮れば、大抵の料理は完成するから」
「そんな無茶な」
「大丈夫ー。ねー、カイトー、お願ーい」
夕飯を作り終えて、リビングに目をやると、マスターの姿が見えない。
寝室にいるのかな?
呼びに行こうと、寝室に向かったら、ちょうどマスターが、電話の子機を手に出てきた。
「あ、マスター。電話ですか?」
「え?あ、ああ。うん。まあ」
マスターは、何故か子機を後ろに隠すと、
「ご飯出来た?いい匂いするね」
「出来ましたよ。冷めないうちにどうぞ」
マスターの手を取り、一緒にリビングに戻る。
「マスターは、座っててくださいね」
「うん。あの、あ、うん。いいや。後でね」
「え?はい」
何だろうと思いながら、キッチンに向かった。
「ごちそうさま。美味しかった」
「良かった。お茶淹れますね」
「うん、ありがとう」
マスターは、ぼんやりと壁のカレンダーに目をやると、
「あのねえ、カイト」
「はい」
「来週、本家に行くから」
「え・・・・・・はい」
マスターは立ち上がり、カレンダーの前に行って、日付の上に指を置く。
「その時ねえ、カイトはお留守番。修理の人が、来てくれるから」
「え!?で、でも、俺はどこも悪くなんて」
「うん。だから、悪くなる前に、見て貰うの。どこか悪くなってから、修理の為に預かりますなんて、嫌だから」
マスターは、俺の方を振り向き、ひたと俺の顔に視線を向け、
「カイトに、いつまでも側にいて欲しいから。カイトと離れ離れになるのは、絶対嫌」
「俺は、俺は何があっても、マスターの側にいます」
「うん。だから、その為に、出来ることはしておきたいでしょ?大丈夫、前と同じ人が来てくれるから」
「えっ」
うっかり顔をしかめると、マスターは吹き出して、
「何、嫌なの?そんなに変わった人?」
「え、あ、い、いえ、嫌じゃないですよ。まあ、少し変わってますけれど。あ、お茶、淹れましたから」
慌てて誤魔化すと、テーブルに湯呑みを置いた。
今日は、マスターが本家へ行く日。
本当は行って欲しくないし、行くなら付いていきたいのだけれど、俺は留守番をしていなければならない。
「じゃあね。いってきます」
「はい。いってらっしゃい」
ドアノブに手をかけて、マスターが振り向く。
「そんな顔しないで。僕は大丈夫だから」
「え、はい。でも」
「大丈夫だよ。カイトも、メンテしてもらえば、安心でしょ?」
「はあ・・・・・・」
玄関を開け、マスターはマンションの廊下に出た。
「じゃあね、カイト。元気で」
「え?あ、はい。マスターも」
ぱたんと閉じられたその時、急にマスターと切り離されたような不安に襲われる。
今すぐ追いかければ、間に合う。
「ば・・・・・・馬鹿馬鹿しい。そんなことしたら、マスターに迷惑掛けるだろ」
どうかしていると、頭を振りながら、俺はリビングに戻った。