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ふざけんなぁ!! 5

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湿布と包帯まみれになった彼女は、「ミイラみたい♪」と、己の姿を鏡で映した後、涙に濡れた目だけど笑ってくれて、そんな彼女の健気な心遣いが逆に居た堪れなかった。

「では、お味噌汁とトンカツ、最後の仕上げをしてきますから、静雄さんはその間にさっぱりしてきてくださいね♪」

ああ、そういや今日……、ノミ蟲の罠に嵌ったのにムカついて、【帰宅するぞ】メールを帝人に送るのを忘れてた。
出来立ての美味しい熱々夕食を静雄に食べて欲しいと願う彼女は、例えば晩のおかずがてんぷらとかなら、食材を衣をつけた状態のまま、静雄のメールを待ち、帰宅時間に合わせてカラッと揚げてくれる。
彼女の滅多にしないお願いだし、静雄もなるべく叶えてやりたいという意気込みはあるが、そういった細かいメールのような単純作業はついつい忘れがちだ。
だから無連絡で帰った場合は、夕食前に風呂に行くのが、この頃の平和島家のルールになっていた。

「十分かかりませんが、カラスの行水は駄目ですよ♪」
小さい手できゅいきゅい背を押され、風呂へと連行される。

逆らう術は勿論なく、言われるがまま湯船につかり、汗や手首にこびりついていた血糊を綺麗に洗い落としてさっぱりする。
途端、またじわじわ喜びがこみ上げてきた。

帝人が自分の物になってくれると確約してくれた。
彼女は俺のもの。名実晴れて恋人で婚約者だ。
もう二度と、一人ぼっちになる孤独に苛まれる事はない。


幸せだった。
こんなに幸せでいいのだろうか?
それにこれでもう恋人なのだから。

「……セカンド・キスは……、俺からしても……、いいよな? へへへへ……」

小さくて柔らかい帝人の唇……、今朝の事を想い出すだけで、ぼぼぼぼっと顔が熱くなる。

「初夜まで手は絶対出さねぇがよぉ、………もう出会った初日に生乳見てるし、ちょっと触るぐらい……、いいよな?」

可哀想なぐらいささやか過ぎるぐらいな膨らみしかなかったけれど、それがまた少女が清らかである証に思える。
誰にもまだ踏み荒らされた事のない新雪のような彼女の肢体を、この自分の色に染め上げる事ができるのだ。

「一応結婚の確約取ったし、今日あちこち痣作っちまったし、寝巻きをちょっと捲って怪我の部分を舌で舐めたって……、恋人なら普通だよな?」

ぽたぽたと湯船に鼻血が落ちる。
段々グレードが上がっていく妄想に、とうとう静雄のキャパシティは限界を超えた。


「うおおおおおお、俺は幸せモンだぁぁぁぁぁ……、帝人ぉ、好きだぁぁぁぁぁ♪♪」
彼はのぼせた頭を冷やすため、頭から冷たいシャワーを被るハメになった。


★☆★☆★


帝人が用意してくれた何時もの黒いスエット上下に着替え、何時ものようにちょっと遅めの夕飯を食べる為、彼女が準備してくれているだろうリビングのテーブルへと足を伸ばした。
今日はもう、べたべたに帝人に甘えるつもりだった。
お膝抱っこでご飯を食べさせて貰って、後は膝枕、今晩も一緒に眠って、帝人がぐっすり眠った隙に、気づかれないようにさわさわお触りする気満々で。
濡れた頭をかしかしとタオルで拭きながら、足取りも軽く、ウキウキと赴いたのに。


この世は想定外の出来事に満ち溢れていて。


「……おい、何でお前がここにいやがるんだ?……」


静雄の何時もの定場所、大型TVの真ん前という特等席では今、ソファーにゆったり腰を降ろし、静雄専用のご飯茶碗と箸を握った弟の幽が、無表情のまま、もっきゅもっきゅと彼のおかず……トンカツを頬張っていた。


「あ、兄さんただいま」
「ただいまじゃねぇぇぇぇ!!」


静雄の野望はあっさり潰えた。


★☆★☆★


その頃、新宿在住の性格に難ありまくりの情報屋はというと。


新羅の家から強奪した、昼間食べきれなかった帝人お手製たいやきを、もっふもっふと頬張りながら、日中己が差し向けたチンピラが寄越してきた写メールを眺めていた。

パソコンのとあるソフトを使えば添付写真のガソ数を弄って、荒くドット模様になってた引き伸ばした映像を、再び綺麗に加工しなせる。
判りにくかった写真を滑らかに加工しなおせば、静雄の背に庇われた来良学園の少女は、帝人とまったく別人だ。
臨也はこくりと小首を傾げた。


「………この女……、どっかで見覚えがあるんだけど。確か……、妖刀だったけ………」


もっふもっふとタイヤキを齧りながら、彼は切り裂き魔事件のファイリングしてある資料を漁り始めた。


作品名:ふざけんなぁ!! 5 作家名:みかる