The moon on water
「だから、俺は戦う。たとえその過程でどれだけ傷つくとしても、失うとしても」
緩慢な動きで刹那の指がロックオンの手に触れる。今までとは手触りが違う。お互いがお互いの肌にきちんと触れているのだ。そうロックオンは直感する。
とても嬉しく思うのに、胸が苦しいのは何故だろう。
刹那が笑ってるからだ、と思った。よく知る者でなければそうとは気づかない程度に微かに、本当に微かに、刹那の口元が緩んでいる。
「……そんな顔も出来たんだな」
「お前が俺に教えた」
再び二人の手は重ね合わされた。そこに水滴がぽとりぽとりと落ちていく。
「ありがとう、会えてよかった」
刹那の傷の出血は止まり、身体の震えももう無い。ただ今はまだ少し、休息が必要だ。いつの間にか、また雨が降り出していた。土砂降りだったさっきと違って今度は細かな霧雨だ。不思議なことに、空は晴れわたり月の光はそのまま差し込んでいる。だから雨は美しい銀色のヴェールになって、さらさらと降り注ぐ。
まるで、刹那を優しく包み込むかのように。
作品名:The moon on water 作家名:キザキ