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The birth

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 ピピピ、と耳を突くアラームの音で俺は慌てて目を覚ました。
 気が付けば、というか当然なのだが、俺はいつも通りライオコット島の日本宿舎の自室で眠っていた。
 頭の中に、まだ先ほど見た夢の残像が貼り付いていて離れない。ベッドから身を起こし、きょろきょろと周りを見回して、昨夜の夢の痕跡を探った。謎の切符でも出てきやしないかと、馬鹿な考えが頭をよぎる。
 なんとも言えない夢だった、と思った。夢の内容は鮮明に思い出せる。最後、光に包まれたときの感覚や温度まで。ああ、でも、たしかにあれは夢だった。おかしな夢だ。
 俺は、夢から覚めたのだということを自覚すると、なぜだか涙がこみ上げてくるのを感じて、それを誤魔化すように慌てて枕元にあった携帯電話を手に取った。無意識にダイアルを押して、通話ボタンを押す。
「……もしもし?」
 耳に押し当てた電話の向こうから、寝ぼけた声が聞こえてきた。
「もしもし、緑川?」
「うん……どうしたのヒロト、こっち今深夜なんだけど……」
「え、ああ、そうか。ごめん」
 なぜ緑川に電話をしたのか自分でもわからなかった。もしかしたらあの列車の夢が本当に緑川の死を意味しているとでも思ったのかもしれない。それもまた馬鹿な考えだ。
「……ヒロト、何かあったの?」
 緑川が、急に心配そうな声で言った。途端、胸の奥がぎゅうと締め付けられるのを感じた。
「ううん。緑川、俺の名前呼んでくれないかな」
「?……ヒロト」
 なんてことないことのように、緑川が俺の言葉を発した。
 そのとき何故か、俺は涙が鼻の奥まで上ってくるのを感じて、ぎゅうと拳を握りしめた。ヒロトなんだ、と、当然のことを今ひどく実感する。ヒロトなんだ。ただ、俺は俺として、たった一人、ヒロトなんだ。
「緑川」
「うん?」
「……ありがとう」
「? どういたしまして?」
 変なヒロトだなあ、と言って、緑川が電話の向こう側でけらけらと笑った。ついさっき夢で見た笑顔と、きっと同じ顔をしていると容易に想像できた。ああ、どうか俺の新しい螺旋のそのどこか一部で良いから、その笑顔がすこしでも組み込まれていればいいのになあ、と、そんな馬鹿なことをぼんやり思った。
作品名:The birth 作家名:田村