The birth
緑川はまるですべて知っているかのような口調で言った。
俺は、これが夢だということになぜかすごく安心して、そうして夢に見るくらい緑川が恋しかったのかとほんの少しだけ恥ずかしくなった。さっきから俺は俺の夢の中でずっと緑川を見つめていることになる。
緑川は、俺の思考はお見通しとでも言うようににやりと笑った。
「あのねヒロト、たぶん、今ここにいるのは俺じゃなくても良かったはずなんだ。たまたま一緒なのが俺だっただけで」
窓の外を、星がまた流れて消えた。列車が進むにつれ、外を過ぎる流星の数が増えていくように感じる。
「ヒロト。ヒロトはさっき死について言っていたけど、たぶんそれは少しだけ合っていて、今、かつてヒロトの中でグランが終わったように、ヒロトの中のヒロトが終わろうとしてるんだと思う」
緑川は、ひどく回りくどい言い方をした。俺は、自分でもわかるくらいに眉を寄せて、
「何を言ってるのかわからないな」
と言った。緑川は笑った。
「うん。一筋縄じゃいかない話だ。でも、これはヒロトの夢だから」
タタン、タタン、と列車が進む。緑川は、夢とは思えないほど悲しい表情を浮かべていた。
「一緒に列車に乗るのに、俺を選んでくれてありがとう」
緑川は笑った。その笑顔に、言いようのない違和感を覚えた。
「たぶん、いつか生まれ変わるとき、一緒に死ぬならヒロトとが良いって、夢じゃない俺も思ってたと思うよ」
「……どうしてそんなことが言えるの。俺の夢なのに」
緑川は、しばらく黙って俺を見つめてきて、そうして寂しそうな笑顔で言った。
「ヒロトが選んだんだよ」
流星が、幾筋も幾筋も重なって線を描いて、窓の外を過ぎていった。流れる星の光で、窓の外が包まれる。俺は、思わず身を乗り出して外を見た。列車の進む先には長いレールが延びていて、それは美しい螺旋を描きながら高く高く上っていく。生命を表す螺旋だ、と思った。螺旋の先は、光に呑み込まれて見ることは出来ない。
車内が光に包まれた。風景がいっきに真っ白に塗り替えられていく中で、俺は緑川を探そうとしたけど、それは叶わなかった。驚くほどに心地のよい光だった。世界が白く染まる中、目を閉じると、まぶたの裏にあの螺旋が見えた。燃えるような赤色の、螺旋だった。