かえりみち
「んじゃ、オレ部活行くわ。また明日な、ツナ。獄寺」
「あ、うん。ありがと山本」
「…とっとと行きやがれ」
「おう。がんばってくるぜ。ソレ、明日の朝返してくれたらいいからなー。獄寺」
気ィつけて帰れよ、と笑顔で継げて、山本は部室のほうに駆けていった。
山本の後姿を見送っていたツナと獄寺に、また、強くて冷たい風が容赦なく吹き付ける。
「わ!」
肩に掛けられただけの獄寺の上着が風に煽られて飛びそうになり、ツナは慌てて襟元を指で掴んだ。
手首や襟元から風が吹き込み、獄寺ほどではないが、ざらりと鳥肌が立ったのが判る。
「…獄寺君。これ、借りるね。ありがとう」
同じく、肩から滑り落ちかけた上着を押さえている獄寺にそう言うと、ツナはふわりと笑った。
「…はい! 是非借りてやってください!」
ツナの笑顔を見て、獄寺も、嬉しそうな返事をした。
獄寺の上着を落としてしまわないように袖を通すと、予想していたことだが肩が余り、袖丈もかなり長い。ツナの指先は、袖の先からぎりぎり見えるかどうか、という感じだ。
(…なんか、自分がちいさいの自覚しちゃうよな…)
ふと獄寺を見ると、こちらも山本の上着を着込んでいた。
しきりに肩の辺りを動かして、ひどく不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。
よく見ると、ツナと同様に、獄寺の指先も、上着の袖にほとんど隠されていた。
どう見てもサイズが合っていない山本の上着を、自分の身体に馴染ませようともぞもぞしている姿がなんだか微笑ましくて、ツナは口元を綻ばせた。
(オレより大きいけど、やっぱり、いっしょなんだよな。獄寺君も)
「山本の上着、ちょっと大きいね」
「い、いや、そんなことはないですよ!」
慌てて袖を肘辺りまでたくし上げてごまかそうとする獄寺に、ツナは笑いかけた。
「獄寺君の上着も、オレには大きくて、手が出ないんだ。ほら」
長い袖をひらひらと振ってみせると、獄寺は、ほとんど見えていないツナの指先を両手でしっかりと握り、ぶるぶると首を振って言い募った。
「…10代目は中身がデカいお方ですから、そんな、袖が多少余ったくらいで気になさることは…!」
「あはは。うん、気にしてない。てか袖が長い分、あったかくていい感じ」
「そう…ですか?」
「うん。背中とかも、獄寺君の体温が残ってる気がする。ね、獄寺君。山本の上着もあったかいんじゃない?」
「…え、あ。はあ…」
ツナの意外な言葉に瞳をまるくした獄寺は、ちょっと考えてから頷いた。
「そッスね。アイツ、ガキ並みに体温高えから、まあそれなりに」
「うん。すごくあったかそう。なんか、ひとの服借りた時ってさ、自分のよりも、あったかい気がするね。それが好きな相手だっりすると、尚更」
コレあったかいね、と、もう一度ちいさく呟いたツナは、本当に嬉しそうに笑った。
「…あの、それって…!」
ツナをまっすぐに見つめた獄寺は、翠の瞳を期待にきらきらさせている。
上着に残った獄寺の体温がツナをあたためていて、しかもツナが笑ってくれるのなら、それは、獄寺にとってこの上ない喜びだ。
さらに、思いがけなく、とても嬉しい言葉までもらってしまい、獄寺の耳や頬は熱いくらいにほわりとほてった。
「…つか、あの、10代目…! オレの服をあったかいって思ってくださるのはすげー嬉しいんですが、アイツの服なんて、でかい分、風除けにちょうどいいってだけで、別に、す、好きとかそんなんじゃ…!」
「あはははは。じゃあ帰ろっか」
「10代目! お願いですから、笑ってないで聞いてくださいー!」
(オレに対してはまっすぐで素直すぎるくらいなのに、山本には相変わらずだよね。かわいいなあ)
サイズが大きいからか、すぐにずり落ちてくる袖を何度もたくし上げながら叫ぶ獄寺を見上げたツナは、笑いすぎて涙が滲んだ目を指先でこすった。