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衣 装

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「光也、結婚式を挙げよう!」
 朝の挨拶もそこそこにこんなことをほざいた男の頬を殴る音で、寝ぼけていたオレの意識は完璧に覚醒した。

「ってぇ」
「僕も痛いぞ」
 びりびりとしびれるグーの形になった右手を左手でじわじわとほどく。食卓には既にフレンチトーストやスクランブルエッグといった洋風の朝食が並び、勉強疲れのオレの腹を魅了してきた。
「みつ君、おはよう。朝から派手ねぇ」
 ころころと笑いながら挨拶してくる百合子さん。視線はオレが殴った奴に向いている。明らかに呆れている色が見てとれた。
「ったく、いきなりわけわからない気持ち悪い言いやがって!」
 ちっ、と舌打ちする。すると亜衣子がハラハラとオレと殴った相手……亜伊子の兄貴へと向いた。
「ナイト、キングを責めないで。……お願い事をしたせいなんだ」
「はぁ?」
 痛い痛いとわざとらしくオレの隣に座って主張する仁を無視して、亜伊子の話に耳を傾ける。
「結婚式を見てみたいって言ったら、じゃあ結婚式をすればいいんだ、って……」


 なんでも、亜伊子と百合子さんが昨日出かけたときに、嫁入りする白無垢の花嫁を見かけたらしい。
 ――今時古風ね、と百合子さんは言っていたが、この時代さえ古風なオレにはよくわからなかった。
 そんな花嫁の嫁入り行列を見て、亜伊子はそれからずっと「キレイだった」と感動していたんだそうだ。で、そんな妹に兄貴が一肌脱ごうとしたらしい……それはまぁわからなくはないけど。
「なんで、オレとお前が結婚式挙げることになってんだよ!」
 ここは声を大にして異議を申し立てたい。
「それはそうだろう。僕と亜伊子、お前と百合子さんじゃ結婚式は挙げられないし、亜伊子はまだ結婚できる年じゃないからな」
「フリするだけなら年とかカンケーねえだろ!」
 食事を消化しながらオレと仁の言い争いは続く。亜伊子はびくびくと俺たちを眺めているが、百合子さんは動じずに器用にナイフとフォークを使ってフレンチトーストを切り分けていた。
「そんなにやりたきゃお前と百合子さんがフリすればいいだろ!」
「年頃の男女がやってはシャレにならない」
「年頃のヤロー同士がやったってシャレにならねえから……」
 早くしないと学校に間に合わない。車で行くといってもそろそろギリギリの時間になっている。
「だいたい、どっちが花嫁役やるんだよ。オレはやらねえぞ」
「大丈夫だ、僕がやる!」
 自信たっぷりに言う仁が、正直気持ち悪い。まじでやばい。
「仁、変態だな」
「変態ね」
「ヘンタイー!」
 さすがに百合子さんも亜伊子も呆れてオレに味方してくれた。……でも多分亜伊子はわかってなさそうだ。
「だいたい結婚式ってのは、客がたくさんいてケーキ入刀とかして出し物して……」
「ナイト?」
 思わず小さい頃一度だけ出た遠い親戚の結婚式のことを思い出して反論したオレは、三人の奇異の視線にじぃっと見つめられることになった。


 のろのろとした車のなかで、オレと仁はむっつりと何も言わずに座っていた。
「光也」
「……んだよ」
 名前を呼ばれて答えてやれば、
「結婚ならいいだろ」
 またそれか!
 口に出す代わりに手での攻撃を試みる。グーで殴るのもパーで平手打ちするのもこの狭さじゃ辛い。広げた手でがっと仁の顔を掴んで背もたれへと沈めた。ぐりぐりぐりぐり、柔らかな座席へと仁の頭が沈んでいく。
「こら、やめろよ」
「うるせえ!」
 ぎゃいぎゃいと俺たちの喧噪を乗せて車は進む。このときには、オレは仁が何をたくらんでいるかなんてわかりもしなかった。


*


 目が回るような外国語の授業をヒィヒィとこなした学校が終わってから、オレは仁に連れられてどこかの店の前に来ていた。
「おそらくうちの者が頼んでいたと思うのだが」
「できあがっておりますよ」
 店の前にいた女将のような人に声をかけた仁が連れられて店の中へと入っていく。オレもついていこうとしたら、さっと手で制されてしまった。
「すぐに戻るから良い子で待っていてくれ」
「ハァ?」
 なにわけのわかんねぇことを言ってるんだか。
 手持ち無沙汰になってしまったオレはきょろきょろと店の周りを見つめた。……何の店かわからないが甘い香りがする。
「待たせたな」
 くんくんと匂いをかいでいると、仁が店から戻ってきた。手には包みを持っている。
「何だよそれ?」
 甘い匂いはそこからもたちこめているようだ。
「我慢しろ」
 にやっと、ひくついていた鼻に何かが落ちてきて、それが仁の唇だとわかったとたんに、手のひらをグーにして仁の顎を殴ってやった。


 屋敷に帰ると、庭がいつになくキレイに整えられていた。茶会(のようなもの)でもあるのだろうか。
「おかえりー」
 亜伊子がぎゅっと抱きついてくる。なんだなんだいったい?
「どうしたんだよ、亜伊子?」
「おかえりなさい、みつ君」
 百合子さんもどこか優しげに微笑んでいる……って、ちょっと待て。
「百合子さん、その格好は?」
 ずいぶんとまた気合いの入った格好だ。この間の婚約パーティー(に見せかけた駆け落ち)と同じくらいの着飾り様。
「結婚式をするのだから、これくらいはしなくちゃね、ほら亜伊子もいらっしゃい」
「えー……」
 亜伊子がオレのズボンからぎゅうぎゅうとくっついて離れようとしない。それよりも、オレは百合子さんが言っていることのほうが気になる。
「結婚式って、出かけてくるのか?」
「何言っているの。結婚式をするのは、貴方と仁じゃない」

 …………は?

 呆然とするオレのズボンが亜伊子によって引っ張られる。
「ナイト、結婚式だからってドレスとか着なくてもいいよね?」
「あったりまえだ! 誰が着るか!」
 この場合、ドレスを着るのはオレじゃなくて亜伊子なのだろうというのはわかっているけどオレも力一杯同意する。
「っていうか、誰と、誰がっけっけっけ……」
「結婚式だろう」
 ひらっと、頭に何かが落ちてくる。視界が白いもやで覆われたように悪くなって、しかしどこか温かな匂いが……って、これ!
「カーテンじゃねえかっ!」
「シーツでもいいぞ?」
 ばっかじゃねえの!
 オレにカーテンをかぶせてきた仁に手をあげようとして、百合子さんと亜伊子の視線に動きが止まる。仁はその隙に、
「さあ、着替えに行こうか」
 オレの腕を引いて自室へと押し込んだ。


「仁、なんだよっ!」
 オレの部屋にはいつの間にか、真っ白いスーツ……燕尾服が掛けられていた、もちろん朝にはなかったものだからオレたちが学校に行ってる間に用意されたものだろう。最初から仕組まれていたようだ。
「白無垢やドレスは用意できなかったからな。瀬戸に無理を言って出してもらった」
「だから、これはどーゆーことだ!」
 怒り心頭のオレの頭からレースのカーテンを取り去って、ベッドへと突き飛ばされる。
「さあ光也選べ。僕に着替えを手伝って貰うか、自分で着替えるか」
 制服のシャツの釦を外しながらじりじりと近づいてくる仁に枕を投げつけた。
「自分で着替えるから出て行け!」
 しかし、枕をひょいと避けた仁は、椅子に腰掛けて「見てる」なんて言い出したのだ。
「おまえなぁ……」
「いいだろう。別に」
作品名:衣 装 作家名:なずな