囁く指先
そういって頭を撫でられるのが不覚にも気持ちいいと思ってしまう自分が嫌だ。
「飯をおごるんじゃなかったのか?」
「私の希望でいいんだろう?またしゃべったからお仕置きだな。」
ぎゅう、と鼻をつままれる。
「イデデデ・・・!にゃぁ!」
「よく出来ました。」
それはそれはエドが今まで見たことない笑顔を見せた。
胡散臭さを感じさせるような薄笑いとか、感情を殺したようなうすら寒い感じではない、本当に素の笑顔のような気がした。
絶句とはまさにこのこと。
「よし、仕事が終わるまでいい子で待っておいで。」
本当に猫を抱きあげるようにエドの腰をすくい上げて背中を撫でる。
あまつさえ頬にキスをひとつ。
「~~~~~~!?」
あまりのことに声も出せないエドに駄目押しとばかりに今度は唇へ。
「・・・煮干しはやめた方が良かったか。」
整った眉が歪んだのを見てエドはたまらず猫らしく爪をお見舞いしようとしたのだが難なくかわされて。
せめてもの報復にと、煮干しの匂いの付いた指先に噛みついた。
してやったり、と指をくわえたまま見上げたその先には酷く楽しそうな表情が浮かんでいた。
「本物の猫にこれはダメだが・・・。」
おもむろに執務机の引き出しから綺麗に包装された箱を取り出して、片手で器用に開けると中から褐色の固形物をつまみあげる。
ふわりと鼻をくすぐる甘い香りに誘われて。
「君は好きだろう?」
答える代わりに金色の猫はなでる指先に喉を鳴らす。