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囁く指先

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 エドの抗議も聞く耳を持つつもりはないらしく、大きく伸びをした腕をゆっくりと振り下ろして後ろ手で組んで腰をひねる動作を続けていた。
 犯行グループもその態度にあっけにとられていたが馬鹿にされているのを理解したらしく憤慨する。
 「この野郎!」
 「ちょ、大佐!」
 マジかよ!
 エドは状況的に自分が動けないことに焦りを覚えて暴れるが存外きっちり縛られた腕は外れなかった。こうなったら無理やりオートメイルを外すしかないか?
 と、起こりうる痛みを覚悟していたときに視界に映る白い残像。

 大佐の手のひら。
 指が1本1本折られていく。 
 その動きに見とれているうちに最後の指がたたまれると同時にばさり、と視界を覆うものがかぶせらた。
 腰の飾り布。
 「それでもかぶっていたまえ。」
 

 視覚が完璧に奪われた途端、聴覚が拾う噴射音と、鈍い音にうめき声。
 「うっ・・ゴホッ。くそ!目が・・・!!」
 「催・・涙・ガスかっ!!」
 「畜生!外の連中何やってんだ。」
 「クソッ・・がぁ!」
 一体何が起こっているのか。
 激昂にまかせて引き金を引こうと撃鉄をあげる音がした。
 「大佐!!」
 目の前で起こっているのに状況が把握できない焦りから大佐の無事を確認したくて声を上げる。
 同時に外から銃弾の音と共にドアを蹴破るような音。
 「銃を捨てなさい!」


 一瞬の静寂をもたらす女性らしい凛とした声色。
 そのあとはバタバタと統制された足並みが続く。
 そして自分に近づいてくる足音。


 「よう、大将無事だったか?」
 いつもよりはくぐもった声はマスクをしているからか。
 布をまくられ、掛けられた声に一瞬びくりと体が跳ねる。
 目の前には無抵抗にさせられた犯人たちが拘束されているところだった。
 「ハボック!そのガキは首根っこつかんで外に摘まみ出しておけ!」
 エドの方へは振り向きもせずテキパキと指示を出している男。
 「━━━yes,sir!」
 犯人から取り返した発火布を手にしてパキリと指を鳴らす。
 一瞬その場の全員がまさか、と思ったが。
 想定した灼熱の焔が出現することはなく。
 一瞬雨あがりの草の匂いが鼻先を通る。
 「ああ、この雨ですものね。」
 「君ねぇ・・・。」
 気持ちを代弁するかのような女神の皮肉が。
 よどんだ空気が一瞬で清浄な空気へ変化した。


 「俺は猫じゃねぇぞ。」
 命令通り、エドの両腕はそのままに柱との拘束を解く。
 ハボックはエドのシャツの襟首を掴んで外へ移動した。
 「そりゃ、猫のがかわいいわなぁ。」
 「けっ。」
 精いっぱいの虚勢もハボックには通用しない。
 「でも猫よりお前さんの方が可愛いひともいるんだろうよ。」
 「はぁ?何いってんの。」
 不本意ながら目線を同じにしてのぞきこまれた目はニヤニヤといつも以上に下がってる。
 

 何故だかそのたれ目にものすごく腹が立ったので。
 「あのさぁ、ハボック少尉って大佐に似てきたよね。」
 効果てきめん。
 「ど。どこがぁ!?」
 瞳の色以上に顔を青くした少尉がちょっとだけ不憫になる。
 仮にも上官に似て来たといわれてこれほど拒絶反応を示すのもどうかと思う。
 掻い摘んで先ほどの経緯を話すと意外な言葉が返ってきた。
 「そりゃ、そうだろ。俺の基本体術の教官だもんよ。」
 「・・・え?」
 


 ━━━━うそだろ!!!!



 「だって、大佐と少尉ってあんま年かわんねぇんだろ?」
 「・・・その話は落ち込むからやめてくれ。あの人の肩書の方がありえないんだからさ。」
 それにしても。
 「士官学校時代にOBが持ち回りで在校生との訓練指導ってのがあるわけさ・・・。」
 卒業前に、試験の一環として在校生VS現役の左官とでの模擬訓練がある。
 「入隊前にめぼしいものの引き抜きだとか配属先についても検討されるいわば実力試験なわけだ。」
 そこでの結果次第で今後の運命が決まる。
 士官学校の総仕上げの1カ月、怒涛の訓練地獄。 



 「あの時の事は思い出したくもねぇ。」
 
 
 
 半分屍状態の少尉を見るに嘘は言ってないようにも思うけど。
 エドは実際見てみないことには納得できない性格だった。
 



 
 「で、私に勝負を挑むと?君も懲りないね。とりあえずまともに報告書を書きあげてから言いたまえ。」
 トン、トン。
 いつものリズムよりも早いのは苛立っているからだろうか。
 「錬金術なしじゃ、俺に部があるもんなぁ?」
 トン。
 動きが止まった。
 あからさまな挑発に乗ってくるか?
 「・・・仮に君の挑発に乗ったとして。私に何のメリットがあるというんだね。」
 「え~と・・・。め、飯おごる、とか・・・?」 
 「君が?」
 社交辞令のごとく軽口の延長線上に誘ったところで尻尾を膨らませて威嚇してくるだけだったというのにどういう心境の変化か。
 「男と食事して楽しいのかね?」
 いつもの上げ足を取って。
 「他に思いつかないんだから仕方ねぇだろ。なんならアンタの希望でもいいぜ!何でも言ってみな。」
 鼻息も荒くいっそ子供らしさを押し付けて。
 


 野良猫が勝手に近寄ってきて威嚇されてる複雑な気分だ。  
 「・・・まぁ、錬金術なしというなら後始末もたいして必要なさそうだし、いいだろう。」
 「ほんとか!?男に二言はねぇな。」
 「ああ。」
 もともと大きな目を輝かせている様は猫が尻尾をピンと伸ばしているようでほほえましかった。
 が、しかし。
 「大将、悪いこといわねぇからやめとけ!この人大人げないから子供に手加減するような人じゃないんだぞ。」
 まさか大佐が了承するとは思わず、心配で様子を窺っていたハボックが止めに入る。
 「もともと手加減してもらおうとは思ってねぇよ。大丈夫心配すんなよ、少尉。」
 「━━━ハボック。もともとはお前が要らん知識を与えるからだろうが。」
 万が一私が負けたら責任とれよ。
 言外にそう言い含めているのをハボックは読み取ってはいたが、エドに負けず劣らす見栄っ張りな上官を胡乱気に見つめ返して。
 負ける気なんてさらさらないくせに。
 内心大仰にため息をついて広い肩をおとした。
  


 結果はと言えば。
 ハボックの危惧した通り。


 
 「ありえねぇ。」
 エドは今、なぜか執務室のソファーの上。
 しかも大佐の膝の上に寝そべっていた。
 「ほら、お前の大好きな煮干しだぞ。」
 もぐもぐもぐ。
 確かに身長を伸ばす要素としてカルシュウムを摂取するのに小魚は有効かもしれないが。
 そんなことじゃなくて。
 「な、なぁ・・・俺いつまでこうしてるの?」
 「今日一日しゃべるなと言っただろう?意思を伝えたいときは『にゃぁ』だ。ほれ、もう一個。」
 中指で口元をつんつんされてエドは仕方なく口をあける。
 「いい子だ・・・。」
作品名:囁く指先 作家名:藤重