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B.PIRATES その1

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『 人生は私達に与えられた小説(ローマン)であってはならぬ、
私達によって作られた小説でなければならぬ 』

        ―――詩人 ノバーリス――――



「恐れていたことが、ついに現実のものとなりましたよ。黒崎さん。」
 浦原喜助が、目の前に広がる海原を見つめながら、言った。
「光と闇が混ざり合い、善と悪が見極められないこの時代に、呪われた伝説が蘇るっていうのは、偶然ッスかねぇ?」
「運命…とでも言いたいのか?」と一護が言った。
「さあ? そんなことアタシには解りませんね。」
 浦原は、ひとつため息を吐いて、海からの風を浴びながら独り言のように言った。
「ただ、アタシは思うんですよ。この世の理を、人が忘却してしまったそのときに、時代のうねりってのは起こるもんじゃないですか? それが今このときでも、なんら不思議はない。そうでしょう?」
「この機会を待ってたような言い様だな、浦原さん。」
 浦原は、帽子を目深に被りなおしながら、口角を上げた。
「ともあれ、心してかかりましょうか。海軍と海賊の、世界を舞台にした大戦争の幕開けッスよ。」






 海軍本部が置かれた、大きな、そして平和な港町。
その、港に近い場所に居を構える、石田雨竜の家の窓の外は、今までに見たこともないほど騒然としていた。
海軍がとうとう本腰をあげて、海賊討伐に赴くのである。
海軍のほぼ全兵士が、隊列を組み、出港準備が整った軍船に次々と乗船しており、港にいる市民は、それを祈るような面持ちで見送っていた。声援を送る者や、愛するものの出兵にすすり泣く者、敵である海賊の恐ろしさを誇張して噂する者などのざわめきで港は埋め尽くされていた。 
 雨竜は、そんな外の状況に目もくれず、目の前で荷造りをしている黒崎一護に詰め寄っていた。
「戦場に行くって…黒崎。なんでだよ。軍人でもないくせに。軍から要請があったのか?!」
「いや。」
「じゃあなんで?!宮廷お抱えの刀鍛冶の君が、戦場に行く理由なんてないじゃないか!!」
 一護は手を休め、雨竜のほうに向き直り、ゆっくりと言った。
「理由が知りたいか?」
「是非とも知りたいね。納得がいかないまま、君を送り出すなんて、まっぴらだ。」
 真剣な表情の雨竜に、一護は沈痛な面持ちで、重そうに口を開いた。
「…今回の戦の発端、知ってるよな。」
「ああ。総督姫君と、海軍内保管の宮廷の財宝の一部が、浮竹率いる海賊団によって奪われた事件が端を発して全面戦争に突入したって聞いている。」
「それらを奪ったのは浮竹じゃなく、おそらく市丸の海賊団だ。浮竹は、そんなセコい真似する海賊じゃない。」
「だから?」
「ヤバい奴に、ヤバい物を奪われたんだよ。
……石田。…イシャンティカの財宝のことは知ってるな? 遠い過去、エジプトのファラオの財宝を、海賊が手にし、広い海のどこかに隠したといわれる。」
雨竜は、突然何を言い出すのかという顔を一護に向けたが、あまりにも真剣な一護の表情に反論することはできず、訝しげに一護の話に応じて言った。
「知ってるよ。 イシャンティカは、エジプトの代々のファラオが、秘宝として持っていたものであり、それを手にしたら、世の覇権を手に入れるという。一説には世を破滅に導く呪われた財宝であるという伝説を持つ。 
…馬鹿馬鹿しい。おとぎ話だろう? そもそも、今回奪われた宮廷の財宝とは関係ないじゃないか。」
「…おとぎ話なら、俺も海に出る必要はねぇんだがな…
…石田。 実はな、今回盗まれた財宝の中に、俺が師匠から託された剣があるんだ。」
「浦原氏から?」
「浦原の意向もあり、海軍総司令部隊長の朽木白哉には、すべてを話して、その剣を宮廷の財宝の中に潜ませていた。…人に知れちゃマズい剣だからな。木を隠すなら森ってヤツだ。」
「何なんだ?その剣は…?」
 更に訝しげに眉根を寄せて問いかける雨竜に、一護は言い難そうに、ゆっくりと言った。
「信じなくても構わないが…。その剣は、代々鍛冶師に受け継がれてきた。イシャンティカの秘宝の在処を示すカギだ。」
「な…?!」
 思ったとおり、信じられないというような顔をした雨竜に、一護は構わず続けて言った。
「今現在、その剣が示す財宝の在処が解読出来るのは三人だけだ。浦原と、俺と、もう一人…」
「…凄く嫌な予感がするんだが…まさかそのもう一人って…」
「さらわれた姫君、ルキアだ。」
「………」
 口を噤んでしまった雨竜に、一護は、ひとつため息を吐いて言った。
「信じなくていいって、俺は言ったぞ?」
「…荒唐無稽だね…。到底信じられる話じゃないよ。」
「だから…」
「いいよ、もう。僕が、信じようが信じまいが、どちらにしろ君は、海に出てしまうんだろう?」
 雨竜は諦めたような口調で、一護に言った。
 雨竜の理解を超えるようなその現実味のない話を、信じるか信じないかなどは、もう雨竜にとってはどうでもよかった。
 今、直面しないといけない事実は、目の前の男が、自分を置いて危険な場所に向かおうとしていることだった。
 雨竜の悲しそうなその問いかけに、一護は何かを感じ取ったように、短く答えた。
「…ああ。何としても、イシャンティカの剣を、市丸から取り戻さなきゃならねぇ。」
「朽木隊長に、合流するのか…?」
「ああ。その後、おそらく浮竹にも話を持っていく。既に朽木白哉と恋次が、浮竹パイレーツに渡りをつけているらしいからな。…剣を取り戻すべく市丸と戦うには、浮竹の力を借りないと不可能だというのが朽木の決断だ。」
「海軍が、海賊に助けを借りるっていうのかい?前代未聞だね。」
「それだけ、深刻な状況だってことだ。」
「結果、市丸、浮竹という二大海賊と全海軍による大戦争が引き起こされるかもしれないってことか…。」
「…そういうことだ。」
「……そして、君が赴くのは、その最前線ってことだね…」
「…雨竜…」
 雨竜は、黒崎に背を向け、窓の外を見た。
 外では、出兵する家族に、別れを惜しむ人々があふれていた。
 誰もがわかっていた。
 今まで見たこともないような、大きな戦争になる。
 今まで感じたこともないような、恐ろしいことが起こる、と。
 
海からの風が、港にいる総ての者に、ひときわ冷たく、悲しくふいた。









『どこの国だってほんとうの善人は多くない、
 はなはだ少ない。
 美しい人も多くはない、はなはだ少ない。
 しかしいないことはない。

 ただそういう人に
めったに会うことができないだけだ。』

     ――――武者小路実篤――――――




 霧の濃いその日、海を漂う一隻の海賊船に、突然どよめきが走った。
 見知らぬ一人の男が、颯爽と、甲板を歩いていたのだ。
 しかもその男が身に着けているのは、位の高そうな海軍の軍服であった。
「て…てめぇ!いつの間に船に乗り込みやがった?!」
「海軍か?!貴様、動くんじゃねえ!!」
あまりに突然の出来事に、周りの船員は動揺を隠せずに、口々に騒ぎ立てた。
涼しい顔をしたその侵入者は、群がる海賊たちを一瞥し、ゆっくりと口を開いた。
「…雑魚に用はない。 船長は何処にいる。」
「何だとてめぇ…」
作品名:B.PIRATES その1 作家名:おだぎり