こらぼでほすと HGP
さすがに疲れてきて、ずるずると、そのまま座り込む。これだけの騒ぎに巻き込まれると、体力と神経の限界も早いらしい。くるくると世界が廻りだした。太陽光直撃だったと後悔したが、すでに遅い。
「おいっっ、ロックオン? おいおい、おまえらー、ママが倒れたぞー。」
マーズが慌てて、大声を上げると、三人がぴたっと一時停止した。八戒が、診察するまでもなく、これは日射病だ。小一時間、散歩して、そのまま晴天の下で騒ぎに巻き込まれてしまったわけで、さすがに、限界だろう。
「別荘に戻って、冷やして水分補給ってとこですかね。・・・マーズさん、そのまま、運んでください。」
「あいよ。ヘルベルト、運転してくれ。ヒルダ、医者だ、医者。」
「わかってるよ、ハイネ、ヘリ。」
「オッケー。悟浄、後はよろしくな。」
連携プレーで、さっさとクルマに乗り込んでしまったものは、そのまま別荘へ戻ってしまった。取り残されたほうは大慌てだ。
クルマは一台しか残っていない。けど、残っているのは、七人だ。乗り切れる数ではない。まさか、オーナーを置いてけぼりにはできないが・・・と、悟浄が鷹と顔を見合わせていたら、キラが、刹那の肩をぽんと叩いた。
「看病してあげてね。」
「ああ。」
「ラクス、いいよね? 」
「ええ、久しぶりに、ふたりっきりですわね? うふふ。」
「ムウさん、僕とラクスは歩いて戻るから、先にクルマで戻って。」
「いいのか? 」
「いいよ。だって、三人とも、すごい心配してるもん。早くっっ。」
一時停止していた三人は、やっぱり、すごい顔になっていた。いつもなら、ロックオンは昼寝をしている時間だし、水分補給もさせている。それらを、全てすっ飛ばしていたからだ。まだ、ちっとも大丈夫でないのに、ついつい騙されている三人だ。
「後で、三時のおやつセットは届けてね? 悟浄さん。」
「おお、届けてやるよ。じゃあ、とりあえず、先に行くぞ。」
三人を押し込んで、クルマは急発進する。それを見送って、キラとラクスは微笑んだ。あふっと、キラは欠伸をして、ラクスの肩に頭を載せる。
「そろそろ眠れないよ? ラクス。」
「今夜、戻りますわ。」
「あ、御餅食べ損なったね。」
「いえ、それは用意させておりますから、別荘で召し上がってください。あれは、私とキラのお祝いですから。」
「そうなの? なんの? 」
「古代、キラの出身の地域では通い婚というのが主流でした。それは、三日間、毎夜、男の方が、同じ女性の許を通うことで結婚したと看做されたのです。そのお祝いに食べるのが、三日夜餅と言うんですよ。」
「僕たち結婚しちゃった?」
ここ五日ばかり、キラはラクスと同じベッドで就寝していた。ラクスの説明からすれば、立派に婚姻成立だ。ただし、ただ眠っていただけで、それ以外のことはなかった。
「昔風に申しますと、そうなります。」
「でも、ダメだよ? 」
「わかっておりますよ、キラ。私くしが、そう思いたいだけの、ただの遊びです。」
「ごめんね。」
「いいえ、こうやって、キラと過ごせるのですから、私くしは幸せです。」
だから、遊びでいいんですよ? と、ラクスは話を終わらせて、キラの背中に手をやって歩き出す。これ以上に望むと、全部なくしてしまうから、ラクスは、それ以上は望まないようにしている。キラは、大切な友達として自分を想ってくれている。たまに、こうやって、ごっこ遊びでいいから、ふたりっきりで居られればいい。
のんびりと別荘の方向へ歩き出して、ラクスは、思い出してケラケラと笑った。
「私くし、親にも打たれたことはありませんでした。」
「僕、しょっちゅう、ロックオンさんには拳骨食らってるな。」
そして、ふたりして顔を見合わせて、
「しょうがないよね? おかーさんだものね。」
と、笑い出す。結局、行き着く答えは、それしかないのだ。
作品名:こらぼでほすと HGP 作家名:篠義