こらぼでほすと HGP
また余計なことを考え始めたキラに、八戒が慌てて思考停止させる。さらに、ヒートアップさせるようなことを言葉にされたら、それこそ大事になる。
「僕が結婚してなかったら、刹那を貰うんだけどなあー」
「・・・・やめてやれ・・・アスランがハゲるから。」
どうして、この場にいないんだよーーと、嘆きつつ、ディアッカがツッコミを入れる。やはり、キラのストッパーは必要だと、その場の全員が納得する。何を言い出して、何をやらかすのか、電波天然は理解不能だ。
そろそろ、この不毛な所有権争いを止めようと、三人の輪にロックオンが入る。誰のものでもないんだから、それを主張されたって、どうなるものでもない。
「はいはい、そろそろ終われ。」
パンパンと手を叩いて、輪を崩す。しかし、よく考えたら、ここは、別荘から徒歩一時間という場所だ。そして、このものすごく重そうな衣装のこいつらが、どうやってやって来たんだろう、と、周囲に目をやったら、なんだか奇妙な衣装の集団が少し離れた場所に、木陰に隠れるように存在している。
なるほど、と、三人は捨て置いて、その元凶に近寄った。濃紫の変わった衣装のキラは、首を傾げてにっぱりと笑っている。
いきなり、ぽこんと、その頭を軽く叩いて、ついでに、その隣りのオーナーの頭にも、さらに軽くこちんと拳骨で叩く。
「俺は、そんなバカなことはしてねぇーよ。・・・俺が、どう思われてもいいけどさ、刹那にまでショック与えるようなことは言わないでくれ。」
「ごめんなさい。」
「ごめんなさいませ。・・あの・・・ですが、キラは・・・」
ふたりは、ちゃんと謝った。さすがに遊びで他人の気分を害したのは、まずいと思ったからだ。ただ、キラが思っていたことだけは、と、ラクスが説明したら、ロックオンは途端に笑い出した。キラが気にしたことはわかる。確かに、自分たちは、また、戦いのある場所へ戻るのだから、先のことはわからない。『吉祥富貴』にいる時間だけでも、幸せな時間であればいいというのは、キラなりの心遣いだ。かなり電波天然なことになっているが、意味はわからないでもない。
「あいつらに? 俺が? ・・・あははははははは・・・それはない、それは。俺、どっちかというと、包容力のある年上が好みなんだ。」
「なんだ、ママは俺が好みだったのか。それなら、そう言ってくれれば。」
鷹は、いやいや照れるなあーと、ロックオンの肩に手を置いた。だが、ぺしっと、その手は叩き落される。
「俺は、男じゃなくて、グラマーな女性がいいんだ。」
「おいおい、マリューかよ? でも、あれは、俺の女だから勘弁してくれ。」
「いや、マリューさんじゃなくて、好みということだけだ。限定してねぇーよ。」
「というか、ノーマルだってことだろ? ロックオン。」
「そうだよ。」
まったく、と、ハイネが結論を告げて、排除排除と、鷹を遠去ける。そろそろと、マイスター三人も近寄ってきた。刹那が、被っていた綿帽子を脱ぎ去り、その重い衣装のままで、鷹に、「駆逐っっ」 と、叫びつつ襲いかかっているが、鷹は、「おおっ、飛び込んでおいで。せつニャンっっ。」 と、喜んで迎え入れる体勢だ。
「オーナー、あの衣装って汚してもいいもんなのか? 」
ふと気付いたロックオンは、つい口にした。どう見ても、高価そうに見えるのだ。あれで草地を走り回っているのは、まずいかもしれない。すでに、草で色がついている箇所がある。
「構いません。あれは、軽量化するために、合成繊維でできていますから。」
「・・・女性に手を出すのは主義じゃないんだが・・・悪かったな。」
「いえ、お怒りも、ごもっともです。でも、慣れて下さいね、ロックオン。私達、唐突に遊びを思いつきますから、真面目に捉えないで頂けると有り難いですわ。」
「え? 」
「キラは冗談を本気でやります。ですから、一々、怒っていると血圧が上がりますから。」
いや、それは、ここ二ヶ月の付き合いでも、なんとなくわかる。たぶん、『吉祥富貴』のオーナーを含めたスタッフというのは、そういうことに全力を注ぐことになっているらしい。そうでなかったら、キラの鶴の一声だけで、自分たちを助けたりしないだろう。これに慣れてしまったら、世界を変えるなんていう大命題に立ち向かうのが、バカらしくなりそうで怖いとは、ロックオンは思う。
・・・あ、だからか・・・・
集っているメンバーは、そういう心持だから、もう、戦うほうに参加しないのかもしれない。ただし、自分たちに害を為すものに対してだけは、それを排除はするだろうが。
「俺は、せいぜい、巻き込まれない努力だけはするさ。」
「そうですね。今は、そのほうがよろしいでしょう。・・・終ったら、正式に迎えます。」
「俺はいいから、うちの奴らは頼むぜ、オーナー。」
「そうはいきませんよ? ロックオン。自分だけが楽になるなんていう考え方はいけません。今度のことで、おわかりになったのではありませんか? まだ、おわかりでないなら、一度、本格的にお教えするほうがよろしいかしら。」
自分が必要だ、と、他のマイスターたちは、そう騒いでいる。それを投げるようなことはさせない、と、オーナーは言っているらしい。
「投げたりはしないけど、俺の優先順位としては、あいつらを先に助けて欲しいってことだ。」
「うふふふふ・・・全員を助けられるだけの力は保持していると申し上げておきましょう。キラが本気になれば、どうということでもありません。前回、あなたたちを助けたのは、私くしと数人だけの仕事です。キラは手を出しておりませんもの。」
それなら、いっそのこと、世界を統一でもすればいいだろうに、と、ロックオンは内心でツッコむだけに留めた。たぶん、キラが、そう願うなら、そうできるだけのものはあるのだろうからだ。
「まあ、せいぜい足掻きなよ、ロックオン。それで、わかることもあるさ。」
パンっと、いきなりヒルダに背中を叩かれて、バランスを崩した。うわぁ、と、前にひっくり返りそうになったら、アレルヤが支えてくれていた。
「大丈夫? ロックオン。」
「ヒルダっっ、万死に値するっっ。」
「おや、ティエリア、威勢のいいことだね? あんたの相手ぐらい、あたしには朝飯前だよ。」
こちらも乱暴に綿帽子を投げ捨てたティエリアがヒルダに掴みかかろうとして、足払いされた。こてんと、ひっくり返ったら、アレルヤは慌てて、そちらを起しに行く。放り出されそうになったロックオンは、ヘルベルトが引き受けている。
「大変だなー、おかーさん。」
「あんなやんちゃ小僧ばっかりじゃ、ゆっくりしてられねぇーよな? 」
そのとなりで、マーズも大笑いしている。本来なら、まだ、うだうだと寝たり起きたり生活をしているはずのロックオンだが、それをしている余裕はない。
「はははは・・・ほんとに。ちょっとは、俺好みになってたらいいんだけどなあ。」
作品名:こらぼでほすと HGP 作家名:篠義