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The romance of falsehood(同人誌)

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中身


「近日中に、旅行に行くことはない?」
他の聞き方が出来ないのが歯がゆい。きっと全部話したらイヴァンはスパイだと思われて、今度こそ耀に嫌われてしまうだろう。それだけは避けたかった。
「旅行なんて、連れてってもらったことねぇある。男だとバレたらいけないあるから、ずっとずっと、この部屋にいるある。」
返ってきた回答にぐっと胸が締め付けられる。長い髪がさらりと風に揺れたかと思うとふわりと体が浮いた。
「えっ……?」
「イ……イヴァンッ!」
強く拒まれ押された拍子に窓の外へと投げ出される。一瞬遅れて体が浮遊感で満たされた。壁に爪を立てるものの落下していく体は支えきれない。なんとか紐を掴むころには爪がボロボロだった。
「イヴァン、ごめっ……イヴァン、イヴァン!」
上で心配そうに呼ぶ声に胸が締め付けられる。耀の意思ではないが窓から突き落とされた。姫ではなく男だった。なのにも関わらずイヴァンは相変わらず耀が大好きだったし、最初に見かけた時とその気持ちは一切変わっていなかった。
真っ赤に染まる指先を呆然と見つめたまま庭に腰を下ろしていると耀がうろたえる様子が聞こえてくる。
「イヴァン、どうしようある、イヴァン、ごめんある、イヴァン、イヴァン……!」
友達でないと自分から縁を切ったはずなのに、耀はイヴァンを気にかける。まだたった二回しか会っていない自分を、耀の立場なら簡単に始末してしまうことも出来たはずなのに。
爪の痛みに耐え、ふらつく足を叱咤して立ち上がり、耀を見つめる。
窓際で耀がびくりと肩を揺らすのが見えた。
「……お願い。一週間くらいで良いんだ。どこか旅行に行って。」
「……イヴァン?」
拒絶されてしまったため、もう自分の手では助けられない。きっと事が終わるころにはイヴァンの名前は耀の耳に入ってしまう。耀が好きだけれど、想いを伝えることは男の彼にとって嫌悪でしかない。
「……君の初めての友達からのお願い。」
旅行に行った――逃げたことで辛い道を歩ませることになるかもしれない。しかし、同時に彼に男としての自由を与えてあげられるのかもしれない。
「イヴァン、手、赤いある……! ああ、血が、どうしよう、イヴァン……!」
「大丈夫だよ、だから泣かないで。」
窓から降り注ぐ耀の涙にイヴァンは優しく微笑みかける。男と知ってもなお、美人な顔立ちや雰囲気に魅了された。
(やっぱり、綺麗だ。)
「お願い、旅行に行って。最後のお願いだから。」
「でも……イヴァン、それは無理ある……。それに、何で……?」
その時、風が吹いた。窓から先程散らしてしまった色取り取りの花びらがイヴァンに降る。その中に、先程耀と話題にした花の花弁も見つけられた。
「……僕は、君を助けたいんだ。」
小さくつぶやいた言葉は耀に届かない。顔を顰めて聞き返してくる耀を無視すると、そのまま中庭を全力で駆けていった。
作品名:The romance of falsehood(同人誌) 作家名:桃斗