だいすきだいすき!
これがデフォルト
突然だが折原臨也は幼稚園児である。
若干五歳ながら「臨也」という難しい漢字をすらすらとかけてしまう、とてもお利口さんな子供で、近所の奥さん連中からの評判はとっても良い。また、外見の愛くるしさは天下一品で、にっこり微笑むだけで大抵の大人をたぶらかすことができる天使のような顔をしていた。
だがしかし、若干五歳にして、その性格は決してよいとは言えなかった。
その厄介な性格故、彼の通う「らいじん幼稚園」では保父さん保母さんたちが振り回され続けてきた。そして何人もの保父さん保母さんたちが胃を痛め、こんな幼稚園にいることはできない!といってやめていったのだった。
だが、それも去年までの話だ。
今年のらいじん幼稚園には、救世主がいた。
その名も、竜ヶ峰帝人先生である。
「みかどくーん!おれがあそびにきてあげたよ!」
今日も元気に朝一でさくらぐみのクラスに現れた臨也は、にっこにっこの笑顔で帝人先生の緑色のエプロンのすそを引いた。
「おはよう臨也君。でも君はお隣のばらぐみだから、戻ろうね?」
振り返った帝人先生の切り返しは、毎度おなじみとなった定型句。それに臨也もお決まりの言葉で返す。
「おれたちのあいのまえにはくらすわけなんてむりょくだよ!」
「うーん、先生規則を守らない子は嫌いだなあ」
「ちがうよ、みかどくんはおれのことがだいすきなんだよ!らぶだよ!」
「そうだね、素直にばらぐみに戻ってくれるなら大好きだよ、臨也君」
にっこり。
既に何回も繰り返したこのやり取り、既に帝人先生はなれたものである。臨也はむぅうううう!と顔をしかめて、その天使のような可愛らしい顔を帝人先生に向ける。
「みかどくん、おれがいなくてもさみしくなぁい?」
ここで寂しくないよ、と返すと「つよがらなくてもいいんだよ」とくるので、最近では帝人先生はすっかりあきらめモードで流すことにしている。
「遠く離れても臨也君が僕を大好きなことは分かっているから平気ですよ」
とっても棒読みなその台詞に、臨也はぱああっと顔を明るくして、
「さすがおれのよめ!」
とかなんとかのたまうのだった。本当に面倒な子、と思いつつ、根本的に子供が好きで保父になった帝人なので、好かれることは嬉しい。ちょっと行き過ぎたこの愛情も、相手が子供だと思えば可愛いものがある。
「よー帝人、朝の恒例行事は終わったかー?」
よしよし、と臨也を撫で撫でしていると、ばらぐみの担任である正臣先生がひょいっと顔を出した。これも毎朝恒例、臨也を迎えに来たのである。
「こうれいぎょうじじゃないよ、あいのすきんしっぷだよ!」
「はいはい、臨也君はばらぐみへ帰りましょうね」
「きだくんはおれとみかどくんがらぶらぶだからっていっつもじゃましないでよね!」
「だーから先生って呼べって」
「やだ」
ぷいっ。
ふてくされてそっぽを向く臨也に苦笑し、はいはい、じゃあ帰ろうな?とその手を引く正臣先生。そして名残惜しそうに帝人を振り返りながら、臨也は手を振り叫ぶのだった。
「みかどくん、さみしいけどおひるねのじかんにまたくるからねー!」
「うん、臨也君はばらぐみでおひるねしようね!」
言っても無駄だが、一応そう言っていさめるのが、保父さんの勤めである。