【銀魂】九兵衛×東城1【女体有】
名残惜しそうな顔をする銀時に東城は小さな声で耳打ちする。
渋るような銀時をどう退散させようか考えていると、九兵衛が笑顔を浮かべて言った。
「せっかくだから一緒にどうでしょう。
普段僕もお兄さんにお世話になっていますしここは僕に奢らせて下さい」
「是非!」
九兵衛がお世話になっているだなんて言ってくれた事に彼は感動に震えた。
だからぽろっと同意の言葉を口にしてしまった。
銀時は心の中でため息をつきつつも、パフェが食べれるのだからまあ良いかと黙り込む。
東城の正体がバレようが、仕事が一つ減るだけで、パフェも食べれるし銀時はそんなに困らないのだ。
「えっと、ティラミスで」
皆で席についた後に東城の頼んだ注文の品に九兵衛が目を丸めた。
ウエイトレスが去った後、九兵衛の視線を感じて東城は恐る恐る「何か?」と尋ねる。
すると九兵衛は柔らかな笑みを浮かべながら言った。
「その、食べ物の趣味も兄弟だと似るのだな、と」
「あ」
しまった。もっとよく考えてから頼めば良かった。
しかし東城はまさか九兵衛が自分の食べ物の好みを知っているとは思っていなかった為
嬉しいやら困るやらで口ごもってしまう。
少し顔を赤らめて視線を彷徨わせる東城を見て、九兵衛は慌てたように言った。
「いや、僕には兄弟がいないものでして、そういうのがよく分からなくて」
話題が兄弟に関する事になった途端、神楽は我関せずといった感じで運ばれてきたケーキを食べ始めた。
話に加わりたくないらしい。お妙はにこにこと九兵衛と東城の会話を微笑みながら聞いている。
銀時もやってきたビッグパフェを無言でもぐもぐと食べていた。
「しかし、歩さんに姉妹がいるなんて聞いた事が無かった」
「はうっ」
「?」
「あ、いえ、ちょっと持病というか、あはは」
名前を呼ばれて東城は鼻を抑えながら曖昧に笑う。このままでは心臓も鼻も持たない。
それでも九兵衛が普段自分をどう思っているのかが聞けるまたとないチャンスを逃がすわけにはいかない。
「幼い頃より私が奉公へ出たもので、なにぶん貧しい家庭だったものですから」
嘘ではない。東城の家は決して裕福ではなかったし、柳生家の門下生になるまでは貧しい暮らしをしていた。
柳生の家に入る際、門下生として入門した後、頭角を現した東城は九兵衛の世話役と護衛の仕事を受けている。
奉公といえば立派な奉公。そう、嘘なんかじゃない、嘘なんかじゃ‥‥。
「奉公。一体どこに?」
「えーと、あ、天人のところに」
なんとなく視界に入った店の外を歩く天人を見て東城は咄嗟にそう言ってしまった。
馬鹿、それじゃあもう奉公でもなんでもない、奴隷じゃないか。
隣に座る銀時も馬鹿、とでもいうように軽く東城の足を机の下で蹴った。
途端にその場の空気がどことなく重くなってしまう。
今まで黙って話を聞いていたお妙が気の毒そうな顔をして優しい声で言った。
「あら、天人なんかのもとで働くんじゃきっとお給料大した事ないでしょう?
よかったら私が働いているお店で働きます?
水商売だけど、男に身体は触らせないし、きっとお給料そっちの方が余程良いわよ。
綾さん、随分と可愛らしいし、きっと上玉のお客さん取れるわ」
「あ、あはは‥‥」
女として褒められるのはなんとも複雑な気分だ。
このままではお妙と一緒にキャバクラで働くハメになってしまう東城は
どうしたものかと引きつった笑みを浮かべたまま、逃げ場を探すように視線を彷徨わせる。
すると、ななめ前に座っていたはずの神楽の姿がない事に気付く。
途端。
「姉御、こいつ銀ちゃん以上に金がないみたいアル」
足もとから神楽の声が聞こえてきた。
どうやら落としてしまった苺を拾おうと机の下に潜っていたらしい。
神楽は床に落ちた苺を口の中に放り込んでから、飄々とした顔で言った。
「ノーパンアル」
その瞬間、場の空気が凍った。
銀時はそういえば女性用下着は購入していなかった事を思い出す。
それにしたっててっきりふんどしだのトランクスだの履いているものだと思っていた。
しかし、皆さん。思い出していただきたい、柳生編でのトイレ対決の時に
銀時がズボンを下ろし、敏木斉や近藤が袴やズボンをトイレの籠にいれていたにも関わらず
彼の入っている個室にはそのようなものは一切見当たらなかったという事を。
そう、ようする彼は袴もズボンも履かぬ着物のみのスタイルにも関わらず、下着は着用しない主義だったのだ。
それが古風の歴史をのっとってなのか彼の変態からくるこだわりなのかは定かではないが。
東城はバッと癖で開いていた足を閉じ、隠すように両手を太股で挟む。
(おま、どこまで変態なんだよ!)
(ここで女物の下着付けてたって変態呼ばわりするくせに!)
(男なら露出狂で済むが、女がノーパンって阿呆か!)
(私は露出狂じゃないです!!ただ尻のあたりが何かに締め付けられるのが好きではないだけで)
(お前の趣向なんて聞きたくねーんだよ!!)
視線だけで会話をしていた銀時は冷たい空気に耐えられず
思わず彼が今女の身である事を忘れその胸倉をつかみ上げた。
その途端、ずるりと着物がずれてぽろりと形の良い胸が零れる。
ノーパン主義の彼が、勿論女になったからブラジャーをするなんて思考回路に辿り着くわけがないのだ。
「あ゛」
そこからはもうあっという間だった。
お妙の回し蹴りが銀時の脳天に直撃し彼は店の外へと吹っ飛んでいく。
そのまま彼にトドメを刺しにゆくお妙の背中を唖然と見守る東城の傍に九兵衛が立った。
彼は顔を赤らめながら着ていた白い上着を脱ぐと、それを東城の肩に羽織らせた。
いくら身体は少女とはいえ、九兵衛は心は男なのだ。女性の裸を見たら照れるのである。
変態のセクハラにさぞかしショックを受けたであろうと九兵衛は気を使うように東城に肩に手を置いた。
「綾さん、その、僕で良ければ貴女にその‥‥服を」
「え、あ」
「買ってもらうといいアルよ。
せっかく東城綾なんて名前してんだからノーパンじゃなくて苺パンツでも履くアル」
「や、でも」
「綾さん、これは僕からの頼みだ。頼むから服を買わせてくれ」
照れたような顔で言う九兵衛が優しく東城の頭に手を置く。
男の時だったら絶対にしてもらえなかった行為だ。
(女万歳!東城綾万歳!!!)
女というだけで九兵衛はこうも自分に優しい笑顔を向けて、身体に触れてくれるというのか!
東城は感動に涙を浮かべた。生きてて良かった!怪我をして良かった!女になって良かったあああ!
しかし周りの者は彼が浮かべる涙を悲しみの涙だと捉える。
(可哀想に、今までさぞかし辛い思いをしてきたのだろう‥‥)
九兵衛は東城綾という人物を護ってやらなければならないという使命感に駆られた。
それは東城歩という人物に世話になっている分、彼女に恩を返したいという気持ちなのかもしれないし
身近にいるが男な上に変態である東城歩に心を開ききれない分、その歩から『男』と『変態』という
九兵衛の受け入れられない部分をまるまる取り除いたような存在に出逢えた喜びからかもしれないし
作品名:【銀魂】九兵衛×東城1【女体有】 作家名:えだまめ